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日本もトランプの自国第一主義?  名古屋議定書パブリックコメント開始 [生物多様性]

いつも拙い本ブログにご訪問いただき、ありがとうございます。
本ブログの更新は、せいぜい週一でしたが、このところ
ブログネタがなくなり、また大学稼業では試験など何かと多忙な時期でもあり、
ブログ更新が滞ってしまいました。

ところで、

連日のように、トランプ米国大統領の言動が世界中の話題になっている。

特定国からの移民・難民の入国禁止措置などは、反対陣営だけではなく、英国など同盟国首脳や連邦裁判所などからも反対意見が続出している。
安倍首相は、国会論戦でも明確な反対意見は表明しないようだけれども。

TPPなど経済政策では特に「アメリカ第一主義」が際立っている。
自国の経済を優先するあまり、地球温暖化の「パリ協定」からの離脱も表明している。(地球環境と一国至上主義 (その1)  気候変動枠組条約と京都議定書をめぐって

でも、これも今回が初めてではない。
かつての「京都議定書」でも当時のブッシュ大統領は、大統領就任直後に議定書から離脱してしまった。

やっと米国も参加する枠組み「パリ協定」が締結されたとたんに、またこの騒動だ。

「生物多様性条約」に至っては、米国は締結(批准)さえもしていない。

製薬業や食品業において、生物資源の利用や遺伝子組み換えに制限がかかるのを嫌がってのことだ。(地球環境と一国至上主義(その2)  生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって

この途上国などに産する生物資源(遺伝資源)の利用とそれから生じた私益配分のルールを定めたのが「名古屋議定書」だ。
名前から分かるとおり、2010年に名古屋で開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」で採択されたものだ。

この議定書は、世界各国の批准を経て、2014年から発効している。

しかし、議定書採択の舞台となり、議長国として取りまとめの中心となったはずの日本は、未だに名古屋議定書を批准していない。

産業界の懸念やそれを受けた関係省庁などの意見がまとまらず、国内での実施ルール作りが進まなかったからだ。

まさに生物多様性条約を批准しない米国と同じと言われても仕方ない!!??

トランプ大統領の移民・難民政策に明確な反対を唱えない日本は、米国追随と思われても仕方ない!!??

それでもやっと、名古屋議定書国内措置に関する指針案が策定され、本年1月20日からパブリックコメント(意見募集)が開始されるまでに至った。

これまで本ブログで何度も取り上げた「名古屋議定書」だけれども、早く批准をしてブログネタにならないようになってほしい!?

1月20日のパブコメ開始で、繰り返しの内容ではありますが、なんとか記事更新ができてホッと一息。

次回はいつ????
また、しばらくお休みさせていただくかも・・・・


【本ブログ内関連記事リンク】

偉大な英国、強大な米国?  ― 英米の選挙に思う一国至上主義の復活と環境問題

地球環境と一国至上主義 (その1)  気候変動枠組条約と京都議定書をめぐって

地球環境と一国至上主義(その2)  生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって

「シーボルト展」をハシゴ ― 日本に魅せられた男の驚異的な日本収集

選挙と生物多様性

名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)






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キリンが絶滅!!? [生物多様性]

「キリンが絶滅するかもしれない!」というショッキングなニュースが、数日前のニュースで流れた。
ご存知の方も多いだろう。

メキシコのカンクンで開催されている生物多様性条約第13回締約国会議(CBD-COP13)で、国際自然保護連合(IUCN)が8日に発表した絶滅危惧種リスト(レッドリスト)の最新版に、キリンが絶滅危惧種(絶滅危惧2類)として追加されたものだ。

動物園の人気者パンダが絶滅危惧種なのは誰でも知っているだろうが、キリンもとはね~
私も、今回のニュースで初めて知った。

小さなころから動物園で馴染んでいたキリンだが、初めて野生のキリンを見たのは、ケニアのナイロビ国立公園だった。

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ナイロビ国立公園(ケニア)にて



ニュース記事によれば、30年前の1985年には15万5000頭はいたのが、2015年には9万700頭にまで減少したと推定されている。

アフリカのサバンナ草原の農業開発などによる生息地の縮小や密猟、そして戦乱などが生息数減少の原因という。

一方で、アフリカ南部では観光用の自然保護区などキリンの生息数は増加しているともいう。

実際、南アフリカのクルーガー国立公園では、ライオン、ゾウ、インパラ、イボイノシシなどたくさんの動物とともに、キリンも見ることができた。

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クルーガー国立公園(南アフリカ)にて



それだけではない。
肉屋の店頭でも、キリンの肉が売られているのだ!!

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上↑の写真は、ブッシュ・ミートといって、野生動物の肉を販売している専門店の店頭だ。

日本でも最近はジビエといって、狩猟した動物の肉を食用にすることが、有害獣駆除の推進の上からも流行っている。

アフリカでは、草原を駆け回る動物を追って、それを食肉とすることは人類誕生からずっと行ってきたことだ。

店頭の肉が、本物の野生動物か、牧場のような所で増殖された、いわば家畜かは不明だけれど・・・

それにしても、多くの子どもたちが縫いぐるみで、そして動物園で慣れ親しんできたキリンが、ジャイアントパンダのように特定の動物園でしか見ることができなくなるとは、考えたくな~い。

そのためには、アフリカの人々の貧困、そして何よりも内乱の根絶を達成しないとね。

【本ブログ内関連記事リンク】

サファリの王国と地域社会 -国立公園 人と自然(番外編3) クルーガー国立公園(南アフリカ共和国)

インドネシアで蚊の絶滅について考える -生物多様性の倫理学

遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)

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「シーボルト展」をハシゴ ― 日本に魅せられた男の驚異的な日本収集 [生物多様性]

先週末、研究資料収集を兼ねて、『よみがえれ! シーボルトの日本博物館』(江戸東京博物館)と『日本の自然を世界に開いたシーボルト』(国立科学博物館)をハシゴした。

前者の日本博物館展覧会は、夏から国立歴史民俗博物館(千葉県)でも開催されていて、行ってみたいと思っていたけど結局行くことができなかった。

11月6日までの江戸東京博物館(東京都)での会期を逃すと、その後は西日本方面の巡回となってしまうので、会期末ギリギリのところで観覧した。

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展覧会ポスター

シーボルトは、ご存じのとおり江戸末期に長崎出島に来日した人物で、日本に近代西洋医学を伝えたほか、伊能忠敬の日本地図を国外に持ち出そうとしたシーボルト事件で有名だ。

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展覧会カタログ

シーボルトはドイツ人医師だが、自然史研究を行うためにオランダ陸軍の募集に応じて、当時のオランダ領東インド(現、インドネシア)で勤務の後、出島オランダ商館付の医官として1823年に来日した。

日本はまだ江戸時代で鎖国中だったから、オランダ軍軍医となったことが、結果として日本との結びつきのきっかけになった。

来日したシーボルトは、日本そのものに魅せられたようだ。
長崎での滞在中、そして商館長の江戸参府への随行としての道中、各所で自分自身、あるいは日本人協力者により、ありとあらゆる自然や文物を収集し、あるいは自然・文物のほか生活の様子などを絵に描かせた。

オランダに帰国したシーボルトは、愛する日本の理解をヨーロッパでも深めるために、収集物を展示した「日本博物館」設立を構想して、各方面にその実現を働きかけた。

展示会は実現したものの、日本博物館の設立は実現しなかったという。
今回の展示品は、シーボルトが夢見た日本博物館への展示予定品の一部というが、動植物の標本・スケッチから絵画、漆器、仏像などの美術・工芸品、生活用具、人々の生活のスケッチなどなど、膨大なものだ。

展示品は撮影禁止のため、写真でご覧いただけないのが残念だ(カタログは購入したけどネ)。
もっとも、数が多すぎて、とてもブログ記事では紹介できない・・・。

この後、長崎、名古屋、大阪を巡回するそうなので、関心のある方は展覧会へどうぞ。


江戸東京博物館のシーボルト展の後、上野の国立科学博物館で開催されているシーボルトの標本展をハシゴした。

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科学博物館企画展入口

膨大な日本の文物を収集したシーボルトだが、彼の日本滞在の当初の目的は、医者としての診療とともに、日本の自然の科学的調査だった。

シーボルトが収集した動植物の標本、スケッチ画、鉱物標本などは、多くがオランダに送られ、現在でもライデン国立植物標本館などに保管されている。

その標本などをもとに著されたのが『日本植物誌』、『日本動物誌』などだ。
その実物が国立科学博物館と前述の江戸東京博物館のシーボルト展に展示されていた。

私も写真では見たことがあったが、実物を見るのは初めてで、その大きさ(およそ40㎝x30㎝)には驚いた。
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膨大な植物標本の中でも、特に有名なのが「アジサイ」だ。
ライデンに保存されていた標本のうち、複数あるものが日本に返還されたその一つだ。

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科博シーボルト展にて

長崎で出会った日本の娘、タキを愛し、発見したアジサイの学名として「オタクサ」を付した。つまり、「おタキさん」のなまりという。

ちなみに、タキとの間の愛娘イネは、西洋医学を学んだ日本最初の女医としても有名だ。

シーボルトによりヨーロッパにもたらされたアジサイやヤマユリなどは、ヨーロッパにはない珍しい植物として、上流階級にもてはやされた。

ヨーロッパ産のユリの花は小型なため、日本産の美しく大きな花をも持つユリ、中でもカノコユリは絶賛されたという。

このように、当時のヨーロッパ貴族階級では園芸ブームが起きており、東洋やアメリカ新世界などの珍しい植物を売り込んで一獲千金をもくろむ者も多かった。

彼らを「プラントハンター」と呼ぶが、シーボルトも結果としてその一翼を担ったともいえよう。

シーボルトなどによりヨーロッパにもたらされたアジサイやユリなどは、その後に園芸植物として品種改良されて、日本に逆輸入されている。

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園芸品種として改良されたユリ(花菜ガーデンにて)

江戸時代には、シーボルトほかにも、ケンペル、ツンベルク、フォーチュンなどが動植物の標本類をヨーロッパにもたらした。

 → ブログ記事「アジサイとシーボルト  そしてプラントハンターと植物園

シーボルト尽くしの秋の一日を楽しんだ。
ちなみに、昼食は江戸東京博物館のある両国で、ちゃんこ鍋を味わった。


【緊急追伸】

このところ、世界は米国次期大統領に決まったトランプ氏の話題で持ちきりだ。

まさにトランプ旋風だが、本ブログの主要テーマでもある環境、人と自然との関係への影響もいろいろと出てきそうだ。

その第一が、地球温暖化防止のための世界の枠組み「パリ協定」からの離脱だ。

生物多様性条約をめぐる自然資源の利用と利益配分にも、依然として参加の見込みはないだろう。

グローバル企業寄りとも思えるその政策は、かつてのブッシュ親子大統領の時代を彷彿とさせる。
ビジネスマンというから、その傾向は強まるかもしれない。

米国追随政策が多い日本(TPPだけは別?)の、このところの世界への対処も気がかりなところだ。

トランプ次期米国大統領のこれまでの言動が、単に選挙用だったのかどうか私には判断できない。

米国の政策、日本の政策に対する考えもまとまらないので、この場での論評は控えることにする。

ただ、トランプショックで世界の環境や生活が台無しになるのだけは御免だ。


【本ブログ内関連記事リンク】

アジサイとシーボルト  そしてプラントハンターと植物園

花菜ガーデンのユリ

生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで

(緊急追伸関連)

偉大な英国、強大な米国?  ― 英米の選挙に思う一国至上主義の復活と環境問題

地球環境と一国至上主義(その2)  生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって

地球環境と一国至上主義 (その1)  気候変動枠組条約と京都議定書をめぐって

地球温暖化「パリ協定」 なぜ今?に迫る -その2 なぜ歴史的合意か

地球温暖化「パリ協定」 なぜ今?に迫る -その1 条約採択と京都議定書

見返りを求める援助 求めない援助





そのチョコレートはどこから? [生物多様性]

先週はバレンタインデー。

そんなものには縁遠かったが、バレンタインデー前日の土曜日に、3月に出かける海外調査(マレーシアのボルネオ島・サラワク州)の航空券手配に行った近所の旅行社の女性社員(女性二人だけの営業所)からチョコをもらった↓。

もちろん義理チョコ(?)、というより営業アイテムだが、何となく心はホンワカと!!

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そこで遅ればせながら、バレンタインデーにつきもののチョコレートの話題。

チョコレートの原料はカカオ豆だ。

カカオの実は、幹から直接垂れ下がったように付いている。

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実が付いたカカオの木(2014年 スマトラ島(インドネシア)にて)

熟れたカカオの赤黒い実を割ると、中には白い果肉が20~30個ほど。
ほのかな甘さの果肉を食べた後、種子を捨てないように農園主に諭された。

カカオ豆は、この種子のことだ。
これが、チョコレートの原料となるから貴重なのだ。

写真↓は、白い果肉とカカオ豆の断面(紫色のもの)。
チョコレートにポリフェノールが豊富な理由は、この辺にありそうだ。

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カカオの原産地は中米で、紀元前の古代、アステカ文明やマヤ文明の頃、あるいはその前から栽培されていたともいわれている。
少なくとも、マヤ文明が栄えた頃にはカカオ豆からチョコレートが造られていたのは確かなようで、もともとは薬として珍重されていたようだ。

現在ではジャングルの中に埋没しているマヤ文明の都市ウシュマル遺跡(世界遺産)(メキシコ、ユカタン半島)。
ここでも、古代の人々はチョコレートを味わったのだろうか。

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ジャングルの中に点在する遺跡は、天空の城ラピュタを彷彿させる
(2002年 ウシュマル遺跡にて)

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魔法使いのピラミッド

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尼僧院

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総督の館(奥)と生贄の心臓を置く台チャックモール(手前)

そして、貴重なうえ、軽量で耐久性もあるカカオ豆は、交易の際に金の代わりの貨幣代わりにも使用されていたようだ。

そのラテンアメリカも、コロンブス以降の大航海時代には、スペイン人などに征服された。

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コロンブス像(2004年 バルセロナ(スペイン)にて)

チョコレートを既に造っていたマヤの帝国や広大な領土を南米に広げた(←追加修正しました2016/02/21)インカの大帝国も、スペイン人などの征服者によって破壊され、滅ぼされた。

インカ帝国の首都クスコ(世界遺産)(ペルー)では、隙間には剃刀の歯さえも入らないという堅牢なインカの石積みの上にキリスト教教会やコロニアル風建物が建設された。

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↑写真の中央部、黒っぽい平滑な石積みがインカ時代のもの(2011年 クスコにて)

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インカ時代の石積みのままの狭い道、石積みの上にはコロニアル風建物
路地の奥には、観光名所ともなっている12角の石組みが


そして、トマトやジャガイモ、カボチャなど多くのラテンアメリカ原産の作物とともに、チョコレートもヨーロッパに伝えられた。

現在のようなチョコレートの製造法は、オランダのバンホーテン社が19世紀に開発した。
しかし、原料となるカカオは、トマトやジャガイモのようにヨーロッパで栽培されることはなかった。

カカオは熱帯性の植物だからで、ヨーロッパに原料を供給するために、原産地のラテンアメリカにはヨーロッパ人によるカカオ農園が開かれた。
農園といっても、カカオの木の性質から、大規模な開けたプランテーションではなく、里山的な多樹種と混在した栽培が適しているようだ。

その後、ラテンアメリカの農園での病害発生でカカオの生産が落ちると、今度は同じくヨーロッパ諸国の植民地だったアフリカに生産の場が移った。

新たな生産地は、アフリカの中でもまだ植民地化の進んでいない中央アフリカや西アフリカが中心で、カカオ農園での労働は奴隷が担った。

19世紀の帝国主義の時代、チョコレートを巡ってもヨーロッパ列強による植民地の争奪戦が繰り広げられたのだ。

現在の高級チョコレートで有名なベルギーも、この争奪戦によってアフリカに植民地(コンゴ、ルワンダなど)を獲得した国の一つだ。

日本のチョコレートの製品名称にも付けられているガーナは、ヨーロッパ列強の植民地となった西アフリカ黄金海岸の地域で、独立後の現在では世界第2位のカカオ豆生産国だ。

ヨーロッパ列強は、20世紀に入ってもカカオ生産による利益を求めて、アフリカだけではなく東南アジアなどでも栽培を広げた。
オランダの植民地となったインドネシアは、現在ではガーナに次いで世界第3位のカカオ豆生産国となっている。

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インドネシアのカカオ農園(2013年 スマトラ島にて)


中国やインドなどの経済力向上に伴い、これらの国でのチョコレート消費量も伸び、最近ではベトナムなど新たな地域での良質豆生産が注目されている。

しかし、世界各地で生産が拡大したカカオ豆の価格は、近年では急暴落している。

その理由の一つは、ロンドンなどのカカオ市場でグローバル企業や投機家たちが少しでも低価格のカカオ豆を買付けようとすることによる価格競争だ。

また、先進国でのコマーシャリズムによる、チョコレートからキャンディーなど他商品への嗜好変化によるカカオ豆消費量の減少もある。

ガーナのカカオ農家は以前は安定した収入を得られたが、価格暴落により現在では経営できなくなり、首都アクラなどの都会には農村から出てきた職のない人々やストリート・チルドレンがあふれているという。

バレンタインデーにチョコレートを贈る風習は、日本のチョコレート企業が販売促進のために考案したとの説が有力だ。

企業の販促キャンペーンに乗った私たちのために、途上国の人々の生活も翻弄されていると思うと、何やら複雑な思いだ。

もっとも、販促は今に始まったものではなく、『土用の丑の日に鰻』のキャンペーンは、江戸時代の天才、平賀源内の考案だという。

でも、これによる大量消費(だけではないが)で、ウナギの稚魚シラスが絶滅の危機に瀕しているとしたら、源内さんも罪深い?

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そのエビはどこから? -スマトラ島のマングローブ林から(2)

そのおいしいコーヒーはどこから? -スマトラ島の国立公園調査

金と同じ高価な香辛料

生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで

生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)

インドネシアの生物資源と生物多様性の保全

一番人気の世界遺産 空中都市 マチュピチュ



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地球環境と一国至上主義(その2)  生物多様性条約と名古屋議定書をめぐって [生物多様性]

1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(リオ・サミット)。
その際に署名開放された二つの条約は、「双子の条約」とも称される。
国連気候変動枠組条約と生物多様性条約だ。

双子の条約というものの、単に同時期に誕生しただけではない。
前回ブログ記事で取り上げたような、産業経済を優先する米国の対応、そして、日本で生まれた議定書に参加しない日本政府の状況まで、そっくりだ。

今回の生物多様性条約の目的は、①生物多様性の保全、②生物資源の持続可能な利用、③利用から生じる利益の衡平な配分、の3点だ。

条約作成過程では、大航海時代以降の西欧の植民地主義・帝国主義による生物資源搾取の歴史から、途上国によって先進国に対する様々な主張がなされた。資源原産国としての認知と尊重、資源利用への対価、技術移転と資金援助、遺伝子組換え生物の安全性などだ。生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで


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大航海時代の重要な生物資源チョウジ
(インドネシア・スマトラ島にて)

これに対し、農産物改良や新薬発見のために新たな生物資源を探査・利用したい多国籍企業などの意向も受けた先進国は、無制限の技術移転やその際の知的財産権侵害などに懸念を示し、知的財産権の確保などを主張した。いわゆる南北対立だ。

この結果として途上国の主張を取り入れて、利益の衡平な配分やバイオテクノロジーの安全性などが条文に盛り込まれた。ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2)

生物多様性の保全に関しては異議もなく、むしろ条約制定を推進してきた米国だったが、途上国の主張を取り入れた妥協の条文となって、雲行きも怪しくなってきた。

当時の米国大統領は、共和党のパパ・ブッシュ(ジョージ・H・W・ブッシュ)だ。
産業経済界からの要請を受けた議会に押されて、京都議定書から離脱したあのブッシュ大統領の父親だ。地球環境と一国至上主義 (その1)

ブッシュ大統領は、結局、リオ・サミット期間中に157か国が署名した生物多様性条約に署名さえもしなかった(気候変動枠組条約には署名)。
後に、民主党のクリントン大統領は署名はしたものの、やはり議会の圧力に屈して、批准はできなかった。

現在でも、米国は生物多様性条約を認めておらず、したがって条約の締約国会議(COP)にも正式参加できない状態だ。

その後のCOPで条約実施の具体策などを示す議定書が討議され、遺伝子組換え生物の扱いなどについては「カルタヘナ議定書」が採択(2000年)された。MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって

この議定書の補完と、生物資源利用のルール(遺伝資源へのアクセスと利益配分 ABS)についての議定書策定が、2010年に名古屋で開催されたCOP10で議論された。


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生物多様性条約COP10の会議場
(2010年名古屋国際会議場にて)

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名古屋では市営地下鉄にもCOP10のロゴが

最終日までもつれ込んだが、何とかABSは「名古屋議定書」として採択された。名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)(カルタヘナ議定書の補完は、「名古屋・クアラルンプール補足議定書」として、先立つMOP5で採択された)

日本にとっても、途上国に存する生物資源の利用は不可欠だが、現代ではかつての植民地時代のように自由に持ち出すことはできない。

そのためのルールを定めたのが「名古屋議定書」で、資源原産国の途上国はもちろん、EUなど多くの先進国の締結により、2014年に発効している。

議定書締結国の先進国企業などは、途上国資源利用に際しては、対価を支払う必要が生じる。

しかし、負担増を懸念する日本の産業経済界は、名古屋議定書の批准(締結)に慎重であり、いまだに締結の目途は立っていない。

まさに、条約そのものを締結していない米国に何と類似してきたことか。

そして、日本で誕生した名古屋議定書を批准しないのは、日本で生まれた京都議定書の延長を認めなかったのと何と類似していることか。地球環境と一国至上主義 (その1)

まあ、生物多様性条約を批准(締結)しているだけ、米国よりもまだましか?!


富士山と箱根が「富士箱根国立公園」に指定されて、今月は80周年。
その記念に依頼された原稿をやっと書き終えて、ブログ更新の余裕もできました
(^_^)

【本ブログ内関連記事リンク】

地球温暖化と生物多様性

生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで

ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2)

名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)

MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって

遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)

地球環境と一国至上主義 (その1)


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 上記ブログ記事の生物多様性条約の成立と南北対立を詳しく、わかりやすく解説。
そのほか、
生物多様性と私たちの生活、さらに生物資源の伝播など本ブログ記事も多数掲載。豊富な写真は、すべて筆者の撮影。おかげさまで第2刷。


生物多様性カバー (表).JPG高橋進著 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』 明石書店

 生物多様性とは何か。生物多様性保全の必要性、これからの社会を持続するための「種類を越えた共生」「地域を越えた共生」「時間を越えた共生」の3つの共生など。

 世界は自然保護でなぜ対立するのか。スパイスの大航海時代から遺伝子組換えの現代までを見据えて、生物多様性や保護地域と私たちの生活をわかりやすく解説。
 
 
  
 目次、概要などは、下記↓のブログ記事、あるいはアマゾン、紀伊国屋、丸善その他書店のWEBなどの本書案内をご参照ください。

  『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版1

 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版2 ―第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係 

 インドネシアの生物多様性と開発援助 ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3

 対立を超えて ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版4



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オオカミ復活!?  - シカの増加と生態系かく乱を考える [生物多様性]

知人から、ある団体の機関誌をいただいた。
その団体の名は、「一般社団法人 日本オオカミ協会」で、機関誌は「フォレスト・コール」という。

この団体では、日本では絶滅したオオカミを復活させ、シカの林木被害などで荒れている森の生態系を復活させようとしているそうで、昨年には「日米独オオカミシンポ2015」を開催した。

本州・九州・四国に生息していたニホンオオカミは、明治末期に奈良県吉野の山中で捕獲されたのを最後に絶滅したといわれている。北海道でも、明治開拓以降にエゾオオカミが絶滅した。


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エゾオオカミ剥製(北海道大学植物園博物館にて)

ニホンオオカミが最後に捕獲された紀伊半島山間部には現在でもオオカミが生息している、ということを信じている人々がいるのが、時々テレビ番組で取り上げられたりもする。

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オオカミも残っていそうな深い森(吉野熊野国立公園大台ケ原大蛇ぐら)

オオカミ絶滅の原因には、毛皮採取のため、家畜を襲う害獣駆除のため、ジステンバーなど伝染病のため、森林開発による生息地縮小などのため、などいくつかの原因があげられる。ひとつの原因ではなく、これらの複合と考えるのが適当だろう。

オオカミなどの肉食動物(消費者)が草食動物を食べ、その草食動物は草などの植物(生産者)を食べ、そして肉食動物の死骸は土壌生物など(分解者)によって植物の栄養となる。これを「食物連鎖」というのは、生物の教科書などでもおなじみの図だ。

食物連鎖が循環的とすると、上下の垂直的にみたものに「生態系ピラミッド」がある。底辺を構成する多くの生物の栄養をより高次の生物が消費し、段階が上がるにつれて個体数も少なくなることから、これをピラミッド状の三角形で図示したものだ。

かつての日本では、オオカミが生態系ピラミッドの頂点に君臨していた。

そのオオカミの絶滅によって、森林では生態系も大きく変化した。
その象徴的な現象が、シカの個体数増加、分布域拡大と林木食害の増大だろう。

近年のシカの増加には、地球温暖化による降雪量減少の結果、冬期でも雪に足を取られることなく移動することができ、また餌となる植物も豊富であることなどの影響が大きい。

しかし、天敵であるオオカミの絶滅も無関係ではないだろう。
温暖化の影響でシカが増加しても、天敵の存在があれば、一定の個体数コントロールがなされるはずだ。

こうして個体数が増加し、冬期には比較的雪の少ない平地に移動するシカの群れによって、日本各地で林木の樹皮食害による枯死や高山植物などの食害が問題となっている。

日光国立公園では、有名な霧降高原のニッコウキスゲの大群落がシカの食害で絶滅寸前になってしまった。群落全体をネットで囲んだり、シカを追い払ったりと、絶滅を回避するための努力が続けられている。

戦場ヶ原でも、特別保護地区の戦場ヶ原にシカが侵入し、貴重な高山植物などを食べ荒らしている。

このため、シカが侵入しないように、戦場ヶ原全体をネットで囲んでいる。
ネットの外側(戦場ヶ原の周囲)(↓写真の上側)は、シカによって林床の草が食われて裸地になっている。
それに対して、内側(戦場ヶ原側)(↓写真の手前)は、シカに食われないために緑が残っている。
その差は歴然としている。

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しかし、ネットの破れ目などからシカが戦場ヶ原内に侵入することがある。

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戦場ヶ原に侵入したシカ

餌としての草の少ない時期には、シカは下あごの歯で樹木の樹皮を下からめくりあげて食べる。

周囲すべての樹皮を剥がされた樹木は、栄養や水分の移動ができなくなり枯死する。

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シカに樹皮を剥かれた樹木(戦場ヶ原での野外学習授業にて)

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森林内で見つけたシカの頭骨

樹皮の食害防止のためには、幹にネットを巻き付ける。

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黒く見えるのがネット

尾瀬でも、やはりシカによる貴重な植物の食害が問題となっている。
ニッコウキスゲなどは食べられてしまうが、一方で毒素があるといわれるコバイケイソウはシカが食べずに繁茂している。

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シカも嫌う?コバイケイソウの実(尾瀬にて)

シカが尾瀬沼や尾瀬ヶ原に侵入しないように、周囲をネットで囲い、登山道にはシカのヒズメが滑って侵入しにくくするための鉄板(グレーチング)が設置されている。

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尾瀬国立公園沼山峠にて

シカも高山植物を絶滅させようとしているわけではなく、生きるために餌としているだけなのだ。
小鹿のバンビはかわいいが、高山植物や林木に被害が出ると目の敵にするのも可哀そうな気がするけど・・・人間の身勝手さか。

前述の団体では、こうした生態系の管理のためにも、オオカミ復活が必要だと主張している。

実際、世界で最初の国立公園のイエローストーン国立公園(米国)のオオカミ再導入は、生態系管理の実験としても有名だ。
家畜を襲うとして駆除されて絶滅したオオカミを、カナダから再導入して復活させ、増えすぎたエルク(シカ)による生態系の荒廃から再生しようとしている。

ドイツなどヨーロッパ各地でも、オオカミの復活が実現しているという。

ニホンオオカミ協会会長の丸山直樹さん(東京農工大学名誉教授)によれば、日本のオオカミはアジア大陸のオオカミと同種であり、導入しても外来種による遺伝子攪乱には該当しないという。また、意外と臆病で人間を襲うこともほとんどなく、日本の家畜飼育状況では家畜を襲うことも考えられないという。

オオカミは、生態系の食物連鎖の頂点に君臨する肉食動物だが、人間との接触も古く、前回ブログ記事(中国文明と縄文文化 - 兵馬俑展と三内丸山、登呂遺跡)の縄文時代には、既にオオカミを飼い慣らした縄文犬と呼ばれるイヌが家畜(狩猟犬、ペット)として飼育されていたそうだ。

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我が家のイヌ
(縄文犬ではない、ただの雑種、2008年に17歳で死亡)

また、古代から信仰の対象ともなり、オオカミの名は大神から由来したとする説もあるくらいだ。
奥多摩の御岳神社(東京都青梅市)では、魔除けや獣害除けの霊験として信仰されていた。

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御岳山ケーブル

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御岳神社本殿

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御岳神社のお札

古代から人間と共生してきたオオカミ。
その関係が狂ったのはいつからだろうか。

今年の「全国巨木フォーラム」は、狼信仰の中心でもある三峯神社のある埼玉県秩父市で10月に開催される。

単なるロマンチシズムでは無責任になるが、科学的な根拠をもってオオカミ復活について考えてみるのも悪くはない?!


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アジサイとシーボルト  そしてプラントハンターと植物園 [生物多様性]

関東地方にも、しばらく前に梅雨入り宣言があった。この季節というと、何といってもアジサイだ。ブログにもアジサイが花盛りだ。

わが家の庭にも、ごく普通のアジサイがあるが、株ごとに色が違う。

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土壌の酸性度によって色が変わると聞いているが、わが家の広くもない庭でそんなに酸性度が違うとも思えないけど。

一番好きな色は青。 「ヒマラヤの青いケシ」と同じだ。


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それぞれの色のアジサイだが、咲くにしたがって微妙に色が変わっていくところがまた良い。

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完全な青になる前の淡い青

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終期になるとやや紫がかってくる(右側部分)


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こちらは赤になる前

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花の中期?(奥)と盛り (手前)


そんなところから、花言葉は「移り気」とか。アジサイには可哀そう?

アジサイと言えば、シーボルトを思い出す。
シーボルトは、江戸時代末期に来日したドイツ人医師で、日本ではほとんどの人が名前を知っているくらいの有名人だ。

鎖国中の日本では、オランダ商館付医師として長崎出島に居住し、日本人に西洋医学を広めた。

長崎で出会った日本人女性「滝」を愛し、日本で採取した新種植物に「オタクサ」の名を付けた。

 

 

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シーボルト著『日本植物誌』(ちくま学芸文庫)(大場秀章 監修・解説)より

この植物こそ日本が原産の「アジサイ」であり、「オタクサ」は「お滝さん」から由来していると言われている。

シーボルトは、アジサイのほかにも多くの植物や動物を採取し、その標本をオランダなどに送っている。その標本類は、現在でもオランダの国立植物学博物館ライデン大学分館などに保存されている。

帰国後は、『日本植物誌』や『日本動物誌』を著して、日本の自然を広くヨーロッパに紹介した。自然だけではなく、伊能忠敬の日本地図を持ち出そうとしたシーボルト事件でも有名だ。

シーボルトの来日に先立つこと約130年前には、同じくドイツ人のケンペルが来日して、日本中を調査して『日本誌』を著し、特に多くの日本の植物をヨーロッパに紹介した。


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ケンペル(左)とバーニーの顕彰碑(元箱根にて)

シーボルトも、ケンペルも、そして両者の間に来日したツンベルク(ツェンベリー)(スウェーデン人)も、ともに医師であり、博物学者でもあった。

日本国内での移動は厳しく制限されていたが、商館長の江戸参府の際には書記とともに随行を認められた医師として、長崎から江戸までの旅をすることができた。

彼らは、途中の箱根などで多くの動植物を採集した。ハコネサンショウウオやハコネグサなど、彼らによって新種として命名されたものも多い。

このように、世界各地で植物を探検し、ヨーロッパに導入した人々を「プラントハンター」と呼ぶ。

もともとは、園芸ブームで希少品種を金に糸目もつけずに買い込むヨーロッパ貴婦人に、新大陸などの珍しい植物を売り込んで一攫千金を目論んだ人々の呼称だった。

日本原産のアジサイも、シーボルトらによってヨーロッパに持ち込まれ、その後品種改良されて園芸品種として逆輸入されているという。

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プラントハンターは、園芸植物だけではなく、その後は医薬品の原材料探索などにも関わり、生物多様性条約では遺伝資源の利用などの南北対立の源ともなった。

プラントハンターが採取した植物の中継・順化の基地となったのが植物園であり、イギリスの王立キュー植物園(キュー・ガーデン)はそのネットワークの中心だった。


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大温室パーム・ハウス(キュー植物園にて)

これらについては、別の機会に紹介しよう。

下記↓の拙著『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』(明石書店)では、シーボルトも含めたプラントハンターや植物園、さらに生物資源の伝播と南北対立などを紹介しています。

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青いケシの花に誘われて

生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)

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名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)

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見返りを求める援助 求めない援助

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 生物多様性とは何か。生物多様性保全の必要性、これからの社会を持続するための3つの共生など。

 世界は自然保護でなぜ対立するのか。スパイスの大航海時代から遺伝子組換えの現代までを見据えて、生物多様性や保護地域と私たちの生活をわかりやすく解説。
 
 
  
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  『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版1

 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版2 ―第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係 

 インドネシアの生物多様性と開発援助 ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3

 対立を超えて ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版4


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青いケシの花に誘われて [生物多様性]

 青いケシの花が咲いているというので、箱根湿生花園に出かけた。
 大涌谷の噴気活動警戒の影響か、土曜日というのになんとなく箱根の人出は少ない気がする。

 園内に入ると早速、鉢植えの青いケシ(ブルーポピー)がお出迎え。なんと園内には1,000株が鉢や直植えで展示されているという。


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 ネパールやブータン、チベット、雲南などヒマラヤの標高およそ3000~5000mの高山に産して、何種かあるみたいだ。展示でもピンクなど色変わりもあった。

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 昨年に訪問したブータンの国花でもある。残念ながら見ることはできなかったけれど。

 園内には、青いケシのほか、思いのほか多くの花が咲いていて、それはそれは美しかった。

 花の写真もたくさん撮ったが、ほんのいくつかをご紹介。


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タニウツギ


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チョウジソウ


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ハマナス


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ヒメサユリ


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ニッコウキスゲとイブキトラノオ


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尾瀬になかなか行けないので、ここでコウホネを


 湿生花園では、毎年、青いケシ展を開催しているが、ケシの花はその都度買い入れているという。

 ケシだけではなく、ミズバショウは新潟県からなど、ほとんどの植物を現地から補充しているというから、裏方も大変だ。

 ところでつい先日、水族館でのイルカ展示でのニュースがあった。和歌山県太地町で行われているイルカ追い込み漁で捕獲されたイルカを買い入れている施設が会員の日本の動物園水族館協会を国際組織の世界動物園水族館協会が除名すると通告したものだ。


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イルカの群れ(小笠原にて)


 それに対して、日本動物園水族館協会では、追い込み漁のイルカの購入は中止し、国際組織に残留する決定をしたという。

 最近では生態展示などのようにずいぶんと改善したが、入手方法だけではなく、見世物になっている動物にも思いやるべきだという動物解放論も提起されている。

 植物園でも、同じような問題が起きないとは限らない。かつての大航海時代などには、プラントハンターと呼ばれる人々が、世界中から珍しい野生植物をかき集めてヨーロッパ貴族に売りつけたりしていた。

 ヒマラヤ地方から入手されたという青いケシの花を見て感動している自分。野生のものではなく、人工的に繁殖・栽培されたものを入手していると信じたい。



(補注)
 植物園や動物園・水族館などで野生生物を展示・繁殖することは、単なる見世物というより、学習上あるいは絶滅危惧生物の保護上も必要なものだ。
 生物多様性条約では、自然状態での保護(生息域内保全)とともに、人工的管理下での保全や繁殖(生息域外保全)の必要性が規定されている。



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インドネシアで蚊の絶滅について考える ―生物多様性の倫理学


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 「プラントハンター」や「生物多様性条約」(生息域内保全と生息域外保全を含む)、「動物解放論」、「自然保護の必要性」など、本記事にも関連する内容も豊富。

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目立たない花 [生物多様性]

 この季節、多くのブログに美しい花々が咲き乱れている。

 天邪鬼というわけではないが、「目立たない花」が気になった。

 「目立たない花」の定義があるわけではないけれど、①小さな花、②緑色など葉や茎と区別しにくいもの、といったところだろうか。

 別に目立たない花のコレクションをしているわけでもないが、ここ数日の散歩の途中や勤務先構内でたまたま出会ったいくつかの目立たない花々。

 スマホで撮ったけれども、小さな花にはピント合わせが難しくて。それに花の盛りも早すぎたり、逆に過ぎていたりして・・・


 秋には赤く目立つ実を付けるカキも、花は地味だ

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 秋を彩るカエデの花も小さく目立たない

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 ドングリのなるカシ類の花も、一つ一つは目立たない(特に雌花序)が、穂状に集まって垂れる(雄花序)と結構目立つ

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 アオキの類も小さな花だけれども、まとまれば目立つ
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 カラスノエンドウは紅のかわいい花。花の色は目立つが、小さくて

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 イネ科の花は、緑色でどれも目立たない

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 腐生植物オニノヤガラの一つ一つ花は小さくて茶色で目立たないけれど、総状に集まった姿は春の緑の中では異様に目立つ

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 生物多様性の世界では、たとえば食物連鎖として知られているとおり、どんな生物種でも、生態系全体にとっては不可欠だということを教えてくれている。

 目立たない花でも、精一杯生きているのには変わりない。花の価値に違いはないはずだ。

 美しい花を愛でるのは、人間が勝手に評価しただけだ。

 雑草や害虫などと人間に勝手に選別された生物でも、生物界ではどれも重要だし、将来は医薬品の原料などとして人間にとっても役に立つ存在になるかもしれない。

 それだけではない。その植物がなければ、生きていけない生物もたくさんいる。

 春の女神とも呼ばれるギフチョウは、特定のカンアオイだけに卵を産み、幼虫はその葉を食べる(食草)といった例などが知られている。

 どの種も、生態系を構成して生態系を支え、いなくなれば生態系のバランスは崩れてしまうのだ。

 人間社会だって同じだろう。目立たない人でも、必ず誰かに必要とされ、世の中のためにはなっているのだ・・・・ということを生物界から学びたいものだ。


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サイレント・スプリング? [生物多様性]

 いよいよ新緑の季節。

 花も咲き乱れ、虫や野鳥たちも賑やかになるこの時期に、生命の躍動が感じられないという化学農薬DDTへの警告を発したのは、米国の女性科学者レイチェル・カーソン著『サイレント・スプリング(邦題:沈黙の春)』(1962年)だ。

 地球環境問題に対する世界の関心が高まる契機ともなった著名な書物だ。

 わが家の庭で、これを体感するかのような現象が見られた。農薬で処理された作物の種と不稔性品種改良、あるいは遺伝子組換えの作物?

 家人が庭で大豆の種を蒔いた。若芽が出ると早速見張りをしていたキジバトが降り立ち、若芽をついばみ全滅に近い。農家が野鳥を害鳥として嫌う気持ちもわかる気がする。


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 庭で果実が実った時も、野鳥との競争だった。先日も、キンカンにカラスが群がり実を食べだしたので、あわてて刺で手を痛めながら収穫した。

 大豆とほぼ同時に種を蒔いたツルナシインゲンの方は、食べられることもなく青々とした芽が育っている。


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 キジバトが大豆は好物だけれども、インゲンは嫌いとも思えない。

 異なるのは生産地で、大豆種子(豆)は国産で、インゲン種子(豆)はアメリカ産というくらいだ。さらに、インゲン種子のパッケージをよく見ると、「チウラム粉衣処理」と書いてあった。種が薄赤に色付されていたのは、このことか。

 ネットで調べると、チウラムとは農薬の一種で、殺菌剤や鳥の忌避剤として使われているらしい。なるほど、土壌細菌による腐りなどを避けて種の発芽率を上げ(パッケージでは発芽率85%以上の表示が)、おまけに鳥がついばむのを避けることができるとは、一石二鳥だ。

 確かに無処理の国産大豆はキジバトの食害にあい、農薬処理のアメリカ産インゲン豆はキジバトも食べない。

 自家栽培の立場からはありがたいが、野生生物も寄り付かないのはどうか、ちょっと気になる。いくら分解が速くて人体に無害だとはいえ、やはり気になる。昔から、「虫も好かない」というけれど。

 これが、体感サイレント・スプリングその1。

 その2は、最近人気の豆苗(とうみょう)。

 豆苗とはエンドウ豆の若菜で、最近では植物工場で豆を発芽させたものが出回り、水だけで育ち、安く栄養も豊富で、何度も再収穫もできる。人気が出るはずだ。
 
 冬の青菜の少ない時期に、わが家でも室内で栽培して何度か収穫をした。春になって青菜も出回るようになったので、残った株を庭に植えてみた。

 すくすく伸びたツルには、かわいらしいピンクの豆の花がたくさんついた。しかし、実(豆)はならない。


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 原因はよくわからないが、わが家の庭では豆類は比較的よく育つので、土壌や養分が原因で実がつかないとは思えない。

 仕事柄気になるのは、「遺伝子組換え」作物だ。国内では大豆(枝豆、大豆もやしを含む)、トウモロコシなどに遺伝子組換え品種の流通が認められている(農水省HP)。

 したがって大豆でなくてエンドウ豆ならば遺伝子組換えの可能性は低いかもしれないが、国内の豆苗商品にはアメリカ産のグリーンピース新芽も出回っているとか。真偽は確認できないが、やはり気になるところだ。

 それと、不稔性品種もあるそうだ。実や種ができないように開発された品種で、品種改良や遺伝子組換えにより作られる。

 種ができないから、農家や園芸家は、自家再生できずに種子や苗を毎年種苗会社から買い続けなければならない。

 先進国多国籍企業の種苗会社や農薬会社が途上国原産の植物から不稔性作物を開発して、これを途上国の農民に売りつけて収益をあげることで、生物多様性の南北問題の争点事例の一つにもなっている。

 園芸品種にも、この不稔性(F1不稔性)が多い。(写真は、不稔性のパンジー)


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 豆苗の場合には、ひょっとするとこちらの方かも知れない。
あるいは、単に何かの条件の関係で実が成らないだけかも知れない。

 インゲン豆の件と同時進行だったので、ついつい疑心暗鬼になってしまう。

 いずれにしても、思いがけず体感したわが家のサイレント・スプリングにもつながりかねない不気味な現象。

 科学的な根拠も明確でないのにいたずらに不安を増長させるのもどうかと思うが、一方で安全性が確認されていない以上慎重にならざるを得ないとも思う。

 環境政策では、「予防原則」というのがある。
 新技術などに不確実性があって環境や健康に重大な影響を与える恐れがある場合には、その影響の因果関係が科学的に十分証明されていなくとも予防的に規制するべきというものだ。
 
 産業経済界などからは必ずしも受け入れられないが、世の中、慎重すぎて臆病なほうが良いこともある。

 化学物質だけではなく、遺伝子組換えも、それから原発も、と思うけれど・・・ネ


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見返りを求める援助 求めない援助 [生物多様性]

 安部首相の対「イスラム国」支援のための2億ドル拠出表明と日本人人質殺害との関係が、国会を含めて多くの関心を集めている。

 そんな中、安部内閣は「開発協力大綱」を2月10日閣議決定した。これは政府の途上国援助(ODA)の基本方針を示すもので、以前からの「政府開発援助(ODA)大綱」に代わるものだ。1992年に閣議決定されたODA大綱では、環境保全がODAの基本理念の一つとされ、「先進国と開発途上国が共同で取り組むべき全人類的な課題」と位置付けられている。

 今回の大綱見直しでは、これまで禁止してきた他国軍への援助を、非軍事目的という限定付きながら認めることとなった。安全保障法制度の見直しの行方とともに、今後を注視していきたい。そのほか、中国の援助への対抗も視野にした援助対象国の拡大など、国益重視が目立つ。

 これらについて、私なりの意見はいろいろあるが、今回のテーマは、新たな方針となった「見返りを求める援助」についてだ。

 “見返りを求める援助”には、外務省をはじめ政府のトラウマが源になっているようだ。というのも、1990年に始まった湾岸戦争の際、日本は130億ドル(関連も含めればそれ以上の額)もの多額の援助をしていたにもかかわらず、戦後91年に米紙に掲載されたクウェート政府による30か国への謝意広告に、日本の名が入っていなかったのだ。

 せっかく多額の援助をしたにもかかわらず、評価されなかったということだ。つまり、金の援助だけではなく、姿の見える援助が求められ、それ以来、PKO協力法成立(1992年)をはじめ、自衛隊の海外派遣などが強化されていった。この一連の動向は、現在の安保法制の見直しや今回のODAの他国軍への援助解禁にもつながるものだろう。

 米国を含めて多くの国々が湾岸戦争に介入したのは、この地域が石油産地ということがあったのは明白だと思う。まさに、“見返りを求めて”のことだった。

 当時の日本の援助はクウェート政府に評価されなかったが、20年後の東日本大震災の際には、クウェート政府は“湾岸戦争時の恩返し”として復興支援に原油500万バレル(当時の時価で約450億円相当)の無償提供を表明した(朝日新聞2011年4月27日ほか)。結局は見返りもあったということだ。

 このブログの主要テーマの一つでもある「生物多様性」分野でも、“見返りを求める援助”が幅をきかせてきた。

 生物多様性には、食料、木材・繊維、医薬品などの原材料を提供したり、レクリエーションや芸術・文化の源となるなどの精神的な効果、さらには生存の基盤となる酸素や水の供給・浄化など、さまざまな機能・効果(生態系サービス)がある。

 このうち、食料・医薬品など生物資源の利用は、コロンブス以来の大航海時代、植民地・帝国主義時代には、産出国への援助のかけらもない文字通りの搾取だった。1992年に成立した「生物多様性条約」をめぐる交渉では、まさに生物資源の原産国(途上国)とその利用国(先進国)とのせめぎあい(南北対立)があった。さすがに20世紀後半になると援助も考慮されるようになってきたが、その本質は今でも“見返りを求める援助”には違いない。(「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)」「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで」)

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植民地・帝国主義時代の象徴 今に残る東インド会社の建物
(インドネシア・ジャカルタ市内にて)

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生物資源として重要産物だったチョウジの乾燥作業
(インドネシア・スマトラ島にて)

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生物多様性条約の締約国会議
2010年のCOP10では、生物資源利用をめぐる「名古屋議定書」が採択された
(名古屋国際会議場にて)



 その典型的な例が、コスタリカ生物多様性研究所(INBio インビオ)と米・独などの多国籍製薬・化学会社メルク社との間で結ばれた契約だろう。メルク社がインビオに援助する見返りとして、インビオは国内で調査研究した生物情報をメルク社に提供するというものだ。もちろん、メルク社ではその情報をもとに、製薬開発を進めることができる。かつては無償で搾取していた生物資源の対価を、資源利用から得た利益として原産国に支払わなくてはならない時代となったのだ。(「名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)」)

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コスタリカ生物多様性研究所(インビオ)
(コスタリカ・サンホセ近郊にて)

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インビオでの生物資源のスクリーニング
製薬資源などを選出・抽出する
(コスタリカ生物多様性研究所にて)



 しかし生物多様性は、前述のように生物資源としての機能だけではなく、生存基盤としても重要なものだ。その生物多様性が、地球上の特に豊富な熱帯地域(多くが途上国)で失われている現状において、はたして保全のための援助は見返りを求めるものだけでよいのだろうか。

 例えばわかりやすく、酸素供給機能の確保のための熱帯林保全援助を考えてみる。これは援助国だけではなく、広く人類、さらには生物全体に貢献するものだ。これを“見返り”とみなすかどうかで、この議論は大きく変わる。たぶん、今回の「開発協力大綱」での“見返りを求める”ことには、このようなものは含まれず、もっと具体的、直接的な生物資源のようなものを想定しているのだろう。

 拙著『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』(明石書店)では、生物資源の確保を目的とした援助と人類共通の生存基盤の保全を目指した国際協調による支援との両者が必要であることを提唱した(拙著 第11章および第13章)。

 私は、1995~1998年の間、インドネシアでのJICA生物多様性保全プロジェクト初代リーダーとして赴任していた。生物多様性の宝庫であるインドネシアの熱帯林の保全が、インドネシアはもちろん、人類にとっても必須だとの思いから活動していた。(「インドネシア生物多様性保全プロジェクト1」) それが、結局は自国だけではなく、人類全体への見返りにもなるのだけれども。

s-s9-チビノン研究棟P4280606.jpg
日本の無償援助で整備された動物標本館

 

s-CIMG0619.jpg
日本の無償援助で整備されたハーバリウム
(ともにインドネシア・チビノンにて)

 

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インドネシアのカウンターパートに技術移転をする日本人専門家
自動的にシャッターが下りて動物が記録されるカメラトラップ
(インドネシア・グヌンハリムン国立公園にて)


 しかし、インドネシア政府高官から、日本はこのプロジェクトの見返りとして、インドネシアからどんな生物資源を期待しているのかと真顔で聞かれた。当時、地球全体の生物多様性保全しか頭になかった私にとって、その発言を聞いた時には一種の戸惑いとショックさえ感じた。それが、拙著執筆のもとともなった(拙著 あとがき)。

 インドネシアでのプロジェクト赴任の当時から、日本の援助であることをPRすることに主眼をおいた「顔の見える援助」が声高に叫ばれ、提供機器などには日本の援助品であることを示すマークのODAシールが貼付されるようになった。プロジェクトにも、日本の援助であることをさまざまな媒体で表明するように要請があった。それはそれで、必要なこととは思うが・・・。

ODAマーク.gif
日本の援助を示すODAマーク

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日本が提供した標本棚の一つ一つにODAマークが貼付
(インドネシア・チビノンにて)

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活きた化石シーラカンスの標本棚にもODAマーク
(インドネシア・チビノンにて)



 一方で、親が子に示す愛のように、見返りを求めない、無償の愛というのもある。あるいは、相手が喜べばそれで本望ということもある。誤解されやすいことわざの一つとして取り上げられる「情けは人の為ならず」。これも、本来の意味は、他人に対する情けも、いずれは自分に巡り返ってくるという意味だ。

 貴重な税金を使う援助(ODA)においては、直接的な、あるいは短期的な「見返り」を求めない援助というのはありえないのだろうか。もっとも、親の愛も、ひょっとすると将来の介護をあてにしているかもしれない、と疑うのは考えすぎだろうか。こんな発想が浮かぶだけでも悲しいことだが。

 ところで、昨年11月の世界国立公園会議(「第6回世界国立公園会議 inシドニー」)でオーストラリア滞在中にホテルでCNNを視ていたら、日本政府のCMが流れてきた。海外で活躍する日本人の紹介で、幾つかのパターンがあるようだけど、最後に必ず安部首相の顔写真が登場する。

 “顔の見える援助”という言葉もあり、日本の宣伝はいいけれど、安部首相のこれでもかの顔写真の宣伝はどうもね。

【ブログ内関連記事リンク】

インドネシアの生物多様性と開発援助 ―『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3
名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)
生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)
生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで
インドネシア生物多様性保全プロジェクト1

【生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ】

生物多様性カバー (表).JPG世界は自然保護でなぜ対立するのか。スパイスの大航海時代から遺伝子組換えの現代までを見据えて、生物多様性や保護地域と私たちの生活をわかりやすく解説。
生物多様性に関わる国際援助の新たな枠組みも提示。

 本ブログ記事も多数掲載。豊富な写真は、すべて筆者の撮影。

 高橋進 著 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』 明石書店刊 2014年3月

 目次、概要などは、アマゾン、紀伊国屋、丸善その他書店のWEBなどの本書案内をご参照ください。

 


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対立を超えて -『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版4 [生物多様性]

 拙著『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』の第Ⅳ部のご案内です。
 これでご案内は、とりあえず終了です。

 実は現在、国際学会での研究発表のため、ブータンのブムタンに滞在中です。
 この記事は予定投稿ですが、ハッカーによるなりすましの遠隔操作ではありませんので念のため(笑)

s-s13-Kapur樹冠DSC01634.jpg
本書のカバー(表紙)にもなっているカプールの林冠(マレーシア森林研究所FRIMで)
太陽光線を求めて譲り合った結果、複雑に入り組んでいる姿は、
本書のテーマでもある『共生』を見事に表している



 第Ⅳ部では、生物多様性保全のための政策アプローチについて考察し、これまでのまとめを行う。

 まとめとして、まずは第12 章で、地球環境問題としての広がり、地球公共財、生命中心主義などの視点から課題を考察する。

 さらに、地球温暖化、自然災害や国際平和、聖なる山と巨樹を継承することなどに対する生物多様性・保護地域の新たな役割と期待について考え、対立を超えて共生するための政策アプローチと地域、種類、時代を超えた三つの共生を提案する(第13 章)。

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地球温暖化防止のためのバイオ燃料の原料アブラヤシ
一方で、プランテーションの拡大は生物多様性の喪失原因

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自然災害の防止のためにも生物多様性機能は期待されている
写真は、奇跡の一本松(岩手県陸前高田市)

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インドネシアの聖なる山ブロモ山で日の出を待つ人々

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地元に密着した巨樹 加茂の大クス(徳島県つるぎ町)

s-s13-タトラ国立公園(ポーランド).jpg
ヨーロッパでもっとも古い国際平和公園
タトラ国立公園(ポーランド)





【目 次】

第Ⅰ部 生物多様性をめぐる国際関係

(ブログ記事「『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版1」参照)

第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係

(ブログ記事「『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版2 ―第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係」参照)

第Ⅲ部 インドネシアの生物多様性保全と国際開発援助

(ブログ記事「インドネシアの生物多様性と開発援助 -『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版3」参照)

第Ⅳ部 対立を超えて──生物多様性・保護地域 その新たな役割と期待

第12章 生物多様性保全への政策アプローチの検討
 広がりとしての地球環境問題への政策対応
 地球公共財としての政策対応
 生命中心主義への政策対応

第13章 生物多様性・保護地域の新たな役割と期待
 地球温暖化と生物多様性
 生物多様性・保護地域と自然災害
 聖なる山と巨樹の継承
 国境を越えた国際平和公園
 生物多様性保全の政策アプローチ
 持続可能な開発と三つの共生

あとがき
参考・引用文献
索引


生物多様性カバー (表).JPG 【ブログ内関連記事】の紹介は、↑の目次にリンクを貼りました。写真も関連記事にリンクしています。
 書籍内(↑も含む)の写真は、すべて著者が世界各地で撮影してきたものです。

 『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』 明石書店刊 

 割引価格でご提供します。左上ブログメールから連絡してください。


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『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』出版 1 [生物多様性]

 これまでのブログの末尾に掲載してきた拙著『生物多様性と保護地域の国際関係 対立から共生へ』(明石書店 2014年3月発行)を紹介させていただく。

生物多様性カバー (表).JPG
表紙カバー
写真は、“共生”の姿を示すカプールの林冠(マレーシア森林研究所にて)



 本書は、このブログでもたびたび取り上げてきた「生物多様性」とその保全のための「自然保護地域」の誕生から現代までの変遷を、国際的な視点から取り上げ、解説したものだ。

 2010年に名古屋で開催された生物多様性COP10では、「名古屋議定書」と「愛知目標」が採択されたが、その合意までには、なぜ参加国間で意見対立があったのか。そもそも、生物多様性とは一体何を意味するのか。誰もが異存ないであろう生物多様性の保全や保護地域の拡大を世界各国はなぜ一体となって推進できないのか。私たちの生活とどのような関係があるのか。

 本書では、これらの疑問に対して、できるだけ平易に解き明かすため、一般的にはあまり知られていない生物多様性と保護地域の光と影、すなわち、生物資源やその原産地でもある自然保護地域を先進国の視点から支配してきたことから生じた先進国と途上国の相克を解明することとした。

 本書は4 部13 章で構成されている。その内容の多くは、私がこれまで専門誌などに発表してきた論文などと、それを一般の方々にもわかりやすく書き下した本ブログ記事がもととなっている。つまり、論文 → ブログ記事 → 出版 という過程を経ている。

 もともと、このブログも「生物多様性」や「国立公園」などを少しでも多くの方々に知ってもらい、理解していただこうと始めたものだけどね。

 目次(記事末尾)をご覧いただくとお分かりのとおり、本ブログ記事の題名と同様の節も多い。したがって、本を購入しなくても、ブログで読めばよいという方もいるかもしれない(笑)。確かにその通りです。しかし、書物になれば、断片的な記事ではなく、系統だった内容を理解することができるかと思う。いや、理解していただきたく、本書を出版した次第だ。

 今回は、本書の第Ⅰ部について紹介する。第Ⅰ部では、植民地時代の生物資源をめぐる争いや生物多様性条約の成立など、生物多様性をめぐる国際関係をみる。

 コロンブスのアメリカ大陸到達とその後の大航海時代における西欧諸国による食料品や医薬品の原材料となる生物資源の支配は、現在でもグローバル企業などを介して続いている(第1 章)。


s-s1-コロンブス像CIMG0061_2.jpg
大航海時代の先駆け、コロンブス像(バルセロナ・スペインにて)
右手は、アメリカ大陸を差しているという

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今も残るオランダ東インド会社の建物(ジャカルタ・インドネシアにて)

 現在の私たちの生活も、これと無縁ではなく、生物多様性の喪失にも加担しているといえるが、なぜ保全が必要なのだろうか(第2 章)。
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マングローブ林を伐採して造成されたエビ養殖池(スマトラ島・インドネシアにて)


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見渡す限りのアブラヤシ・プランテーション
スナック菓子やカップラーメンなどの油脂に使用される

 その生物多様性保全概念の醸成を国際的な環境政策の変遷のなかで明らかにする(第3 章)。

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初めて「持続可能な開発」の用語を使用した「世界保全戦略」(1980年)



 また、生物多様性条約の成立に際しては、保全と利用をめぐって、名古屋COP10 での対立の背景ともなる大航海時代にまでさかのぼる先進国と途上国の軋轢があった(第4 章)。

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名古屋COP10会場(2010年)(名古屋国際会議場にて)



  【目次】

  第Ⅰ部 生物多様性をめぐる国際関係

  第1章 生物資源の利用と交流
     大航海時代と植民地──生物多様性をめぐる覇権争い
     日本にも来たプラントハンター
     先住民の知恵と現代のプラントハンター
     バイオテクノロジーとグローバル企業
     INBio-メルク社契約とパラタクソノミスト 
 
  第2章 生物多様性の喪失と保全
     生物資源利用と生物種の絶滅
     私たちの日常生活と熱帯林の破壊
     そのエビはどこから?
     生物多様性の価値
     生物多様性の保全はなぜ必要か
     生物多様性の倫理学
     生物多様性保全の二つのアプローチ
     保護から保全へ、さらに再生へ

  第3章 生物多様性概念の醸成と政策の変遷
     自然観の変遷
     国際環境政策の潮流
     生物多様性の国際会議・条約の変遷
     生物多様性概念の醸成
     国際生物多様性政策の転換点

  第4章 生物多様性条約と南北問題
     生物多様性条約
     条約交渉と南北問題
     遺伝子組換え生物とカルタヘナ議定書
     名古屋COP10への道のり
     “MOP5”って何?
     COP10の成果──名古屋議定書と愛知目標

  第Ⅱ部 国立公園・自然保護地域をめぐる国際関係  (略)

  第Ⅲ部 インドネシアの生物多様性保全と国際開発援助  (略)

  第Ⅳ部 対立を超えて──生物多様性・保護地域 その新たな役割と期待  (略)


  今回の【ブログ内関連記事】の紹介は、該当記事が多すぎるため、上↑の目次にいくつかリンクしてみました。
  内容の例として、ご覧下さい。

  割引価格でのご提供を↓コメントに書きました。


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地球温暖化と高潮 ―防潮堤とマングローブ林 [生物多様性]

 地球温暖化に関するIPCC(気候変動に関する政府間パネル)総会が昨日(3月29日)まで横浜で開催された。世界中から約500人の研究者や政府関係者が参加し、地球温暖化による影響(生態系、食料、海面上昇、健康ほか)と適応策などに関する報告が作成された。

 報告書によれば、日本でも今世紀末には、2000年までの20年間の平均に比べて、降雨量は9~16%増加、海面は最大63cm上昇、砂浜は最大85%消失するという。ハイマツやブナなどの植生をはじめ、生態系にも大きな変化が生じる。さらに農業でもコメやミカンをはじめ、栽培地や収穫量の変化が生じ、熱帯性の害虫増加なども予測される。人への健康被害でも熱帯病などの蔓延が懸念されている。

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高山のお花畑(南アルプス北岳)

 これら予測のうちのいくつかは、既に現実のものとなっている。生態系変化では、ナガサキアゲハやクマゼミなどのもともとは西南日本に分布していた種が関東地方にまで分布を拡大しているのも温暖化の影響とみられている。植物でも、北海道アポイ岳などの高山植物帯の消失ほか、温暖化影響とみられる多くの植生変化が報告されている。近年のシカの増加も、天敵のオオカミ(ニホンオオカミとエゾオオカミ)の絶滅もさることながら(こちらは100年前の話だ)、温暖化による降雪の減少で餌が豊富になったことが大きい。
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個体数増加により貴重な植生への被害も(日光国立公園戦場ヶ原)

 気候変動、いわゆる異常気象は私たちの生活にはもっと切実だ。昨年から今年の天候に限っても、夏の暑さと冬の寒さ、あるいは降水量の異常さは、「観測史上」の最高・最低などの記録を塗り替えてしまった。

 その中でも、海面上昇に伴う「高潮」は、全世界で沿岸域に暮らす人々の脅威となっている。これまでも、南太平洋のパラオなどでは、海面上昇によって国土(島)自体が水没する危機が迫っていることは、マスコミでも映像を伴って頻繁に取り上げられてきた。

 それに加え、昨年(2013年)11月には、フィリピンのレイテ島などで高潮による甚大な被害が生じた。この直接の原因は、もちろん大型台風(台風30号ハイエン)による強風と低気圧の海水面引き上げではあるが、温暖化により通常の海水面も昔に比べて上昇していたことは考えられないだろうか。あるいは、大型台風の発生自体が、温暖化による海水温度の上昇と関係があるのではないだろうか。私はこの点では全くの素人なので軽軽な推測はすべきではないかもしれないが。

 いずれにしろ、日本ではもっぱら地震による津波に関心が集まっているが、温暖化に伴う高潮被害の増加にも目を向ける必要がありそうだ。

 インドネシアでは、沿岸域のマングローブ林が、エビ養殖池や水田耕地の造成、薪炭材利用のための伐採などにより、急激に減少してきた。マングローブ林は、これまで防潮堤の役割も果たしてきたが、伐採・消失に伴い高潮被害も頻発するようになってきた。

 

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マングローブ林(インドネシア・スマトラ島)

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マングローブ林を伐採して造成したエビ養殖池(スマトラ島)

 地方政府当局は、被害軽減のためにコンクリートや石積みの防潮堤を建設しているが、工事によりわずかに残ったマングローブ林が伐採されることにもなっている。もちろん、わずかなマングローブ林では防潮機能は十分発揮できないかもしれない。
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マングローブ林の代わりに建設された石積み防潮堤(スマトラ島)

 しかし、沿岸住民はコンクリート護岸(防潮堤)にも不安を抱き、マングローブ林の防潮機能に期待してもいる。私が昨年実施したスマトラ島ランプン州の沿岸住民へのアンケート調査でも、マングローブの防潮機能に対しては、他のエビ・魚類など海産物の育成機能、海水の浄化機能、沿岸の浸食防止機能などよりも、高い評価をしている。

 インドネシアの地方政府では、日本のように10mもの高さの防潮堤は、予算面でとても建設できない。いや、日本でも東日本大震災後の津波対策として、長大な高い壁のような防潮堤の復興には議論が起きている。「緑の防潮堤」や計画的な移転などのもっと総合的な対策も提案されている。
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東日本大震災の津波被害による防潮堤倒壊(岩手県宮古市田老町)
右奥の建物は、震災遺構として保存される「たろう観光ホテル」

 世界的にも、高潮を含む様々な自然災害に対して、自然の機能を活用した自然災害減災(ecosystem-based disaster risk reduction: eco-DRR)対策が模索されている。

 私たち人類は、食料はもちろん、建築、衣類(繊維)、乗り物、薬品その他多くの分野で自然を模倣(生物模倣技術 バイオミメティクス)して、さまざまな製品を生み出してきた。

 自然から学ぶことは多い。このブログでもたびたび取り上げているように、健全な社会は多様性に支えられていることを自然は教えてくれている(生物多様性)。

 人間社会での多様性は、人種や宗教などの多様性はもちろん、いろいろなことに対する考え方や言動も多様であることを認めることだ。すなわち、個性の尊重だろう。とかく日本では画一的な社会性を求めることが多いが、私自身、教育の場で心したい。

 地球温暖化から、ずいぶんと話はそれてしまった!?


 【ブログ内関連記事】

 「津波とマングローブ林再生 -スマトラ島のマングローブ林から(1)
 「震災被災跡地の風化 -被災地訪問記1
 「地球温暖化と生物多様性

 「奇跡の一本松と川を遡った津波 -被災地訪問記2
 「多様な生態系のエコツアー:マングローブ林と観光の可能性 -スマトラ島のマングローブ林から(4)
 「バーベキュー炭もマングローブから:マングローブの生活資源 -スマトラ島のマングローブ林から(3)
 「そのエビはどこから? -スマトラ島のマングローブ林から(2)

 「イベント自粛と被災地との連帯 -自粛の連鎖から多様性を考える
 「地震ニュースとCMの多様性 -私的テレビ時評

 「タイガーマスク運動 -ランドセルと多様性
 「ボールペンの替芯からエコと多様性を考える
 「形から入る -山ガールから考える多様性
 「音楽と騒音と -海外調査から帰国して文化の多様性を考える
 「選挙と生物多様性
 「自然の営みから学ぶ -人と自然の関係を見つめなおして

 【書籍出版のお知らせ】

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『生物多様性と保護地域の国際関係 ―対立から共生へ―』
 明石書店より3月25日発行

ブログ記事で解説した内容なども多数、体系的に掲載 
平易な解説と物語の一般読み物としてもどうぞ
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多様な生態系のエコツアー:マングローブ林と観光の可能性 -スマトラ島のマングローブ林から(4) [生物多様性]

 チャーターした漁船は、穏やかな海面を滑るように樹林に近づいていく。近くに寄ると、その樹木のどれもが、タコの足のような根を何本も海中に突き刺さして、海流に流されまいと懸命に足を踏ん張っているような姿がはっきりと見て取れる。

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 スマトラ島のマングローブ林

 マングローブとは、熱帯や亜熱帯の海岸沿いや河口などの潮間帯に生育する植物の総称だ。だから、「マングローブ」という固有名の植物ではなく、100種ほどの植物をまとめてマングローブと呼ぶ。日本では、メヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギ、ヒルギダマシ、ニッパヤシなどの5科7種で、沖縄県の島嶼や鹿児島県南部に分布する。インドネシアでは、バカウ(Rhizophora リゾフォラ)と呼ばれる種とアピアピ(Avicennia アビセニア)と呼ばれる種とが広く分布している。

   s-CIMG0512.jpg   s-CIMG0507.jpg
   アピアピ種のマングローブ林            アピアピの種子

 潮間帯、すなわち満潮と干潮の間に、海水に浸かったり干潟になったりする海岸や河口部に、マングローブで構成されるマングローブ林が発達する。栄養分も豊富で、マングローブの根に囲まれた安全地帯でもあり、プランクトン、エビやカニ類、貝類、稚魚、さらにこれらを餌とする鳥類などの動物相も豊かだ。まさに、「生物多様性の宝庫」といえる場だ。

 こうしたマングローブ林そのもの、あるいはそこに生息する動物たちを観察するエコツアーが発展すれば、マングローブ林を伐採してエビ養殖池などにしなくとも、地域の人々に収入をもたらすことができるかもしれない。
 
 しかし、マングローブ林が発達するのは海岸の泥地だから、歩いて林内観察をするのは困難だ。そこで、船で周遊することになるが、これはなかなか楽しい経験だ。沖縄では、西表島の仲間川や浦内川などのマングローブ林を周遊する遊覧船もあり、最近ではカヤック(カヌー)で回る体験ツアーも盛んだ。

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   西表島のマングローブ林(後良川)  マングローブ林ツアーボート(セレストン保護地域)

 かつて訪れたメキシコのユカタン半島先端のセレストン生物圏保護地域では、ボートに乗ってマングローブ林を抜けると、フラミンゴの大群を見ることができた。漁業をしていた地域の人々は、現在では地元政府の補助により漁船を観光船に改造し、日常語のスペイン語以外に英語やフランス語などを習得してガイドとして生計を立てている。

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   マングローブ林の先の開けた塩水域    かつての漁民はエコツアーガイドに

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ツアーの目玉はフラミンゴ(メキシコ・セレストン保護地域)



 しかし、インドネシアではマングローブ林は当たり前で、誰も見向きもしない。それどころか、エビ養殖池やマングローブ炭のために伐採されてしまっている現状は、以前のブログ記事での報告のとおりだ(「バーベキュー炭もマングローブから:マングローブの生活資源」、「そのエビはどこから?」)。このため、マングローブ林の伐採により、津波や高潮の被害におびえている住民も多い(「津波とマングローブ林再生」)。

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マングローブ林が伐採されて広大なエビ養殖池が造成されている(スマトラ島にて)


 一方で、スマトラ島ランプン湾内のマングローブ林に覆われたP島では、個人が所有する200haもの広大な土地が、ヘリポート付きのまるでリゾートホテルのように整備されていた。必ずしもマングローブに着目したものではないが、のんびりとした時間の流れを満喫することのできる場としてマングローブ林も一役買っている。

   s-DSC03645.jpg   s-DSC03650.jpg
    個人所有の広大な別荘地(?)        普段は使用されないコテージ

 私の調査研究は、インドネシアのマングローブ林の保全を図りつつ、地域社会に経済的な利益をももたらす方策の可能性と課題などを探るものだ。

 その一つの有力な手段にエコツーリズムがある。動植物観察の「エコツーリズム」だけではなく、地球温暖化対策や津波対策も兼ねた「マングローブ植林ツアー」(「津波とマングローブ林再生」記事参照)も有効かもしれない。

   s-DSC03668.jpg    s-マングローブ植林00907.jpg
 左)観察タワーも建てられているが、場所や高さの関係もあり、あまり利用されていない(スマトラ島にて)
 右)マングローブを植林する地元小学生

 都市化が急速に広がるインドネシアでは、海岸近くの住民でも、マングローブ林を見たこともない人々が増加しつつある。

 特権階級(セレブ)だけのマングローブ林リゾートではなく、地域住民も恩恵を受けつつ、拡大しつつある中産階級や海外からの観光客も受け入れる観光の可能性を探求してみたい。

 観光も多様なマングローブ林の機能の一つにすぎない。炭素吸収源としての地球温暖化対策による高潮被害をもたらす気候変動対策への寄与、直接的な津波の防波堤、もちろん薪や炭などの燃料、水産業などの経済的効果など、マングローブ林の効用は計り知れない。

 【ブログ内関連記事】

 「バーベキュー炭もマングローブから:マングローブの生活資源 -スマトラ島のマングローブ林から(3)
 「そのエビはどこから? -スマトラ島のマングローブ林から(2)
 「津波とマングローブ林再生 -スマトラ島のマングローブ林から(1)
 
 「オランウータンとの遭遇 エコツーリズム、リハビリ、ノアの方舟 -国立公園 人と自然(番外編8)グヌン・ルーサー国立公園(インドネシア)
 「エコツーリズムの誕生と国際開発援助
 「エコツーリズムと保全について考える -エコツーリズム協会記念大会でコーディネーター

 「熱帯林の消滅 -野生生物の宝庫・ボルネオ島と日本
 「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全
 「南スマトラ調査


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巳年の植物 [生物多様性]

 新年おめでとうございます。
 昨年は、本ブログにご訪問いただき、ありがとうございました。本年もよろしくお願いします。

 今年は巳年。干支は、空を駆ける辰から、地を這う巳への変化だけれど、世の中はどう変わるのか、変わらないのか。

 s-ヘビイチゴ.jpgところで、植物の名にも“ヘビイチゴ”や“ジャノヒゲ”、さらには“マムシグサ”などのように、ヘビにちなんだ名をもつ植物も多い。環境省が自然環境調査用に編纂した「植物目録1987」から拾ってみると、「ヘビ」の名のつく植物は19種、「ジャ」がつくものは9種だった。もちろん、ジャコウなどのように、ジャがついても他の意味であれば除いた。

 s-ジャノヒゲ.jpg“ヘビ”がつくのは、先ほどのヘビイチゴ(蛇苺)(ヤブヘビイチゴなど8種)のほか、ヘビノボラズ(蛇登らず)(4種)など合計19種だ。また、“ジャ”がつくのは、ジャノヒゲ(蛇の髭)(4種)、ジャケツイバラ(蛇結茨)など、合計9種だった。

 s-ヒガンマムシグサ.jpgちなみに、「マムシグサ」は、マムシグサ、ヒガンマムシグサ、ツクシマムシグサなど5種がある。サトイモ科テンナンショウ属のマムシグサの仲間は、その名のとおり一見マムシかと見える姿をしている。球根や葉などにシュウ酸カルシウムを含み、有毒だという。まさにマムシのごとくだ。

 s-リュウノウギク2.jpg一方、昨年の干支だった「タツ」あるいは「リュウ」はどうだろうか。“タツ”はタツノツメガヤなど2種だけで、“リュウ”はリュウノウギク(龍脳菊)(2種)、リュウビンタイ(龍の鱗)(4種)など12種だ。リュウはリュウでも、リュウキュウ(琉球)やリュウキンカ(立金花)など、タツもタツナミソウ(立浪草)など、紛らわしいものは多いが。

 どうやら、植物名の種数だけに限れば、昨年の辰年よりも、今年の巳年の方が上向いているように見える。内実もそうなってほしいものだ。少しは、明るい話題がほしい。

 (写真右上) ヘビイチゴ
 (写真左上) ジャノヒゲ
 (写真右下) ヒガンマムシグサ
 (写真左下) リュウノウギク

 (関連ブログ記事)
 「植物名の由来・分類
 「海辺のお散歩と夏の海浜植物


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植物名の由来・分類 [生物多様性]

 前回のブログ記事で、夏の海浜植物を取り上げた。掲載写真の4種中3種は、頭に“ハマ”の付く名前だ。これはすぐお分かりのとおり、海浜に生育する植物として「浜(はま)」が付けられたものだ。

 私はかつて、このように2種以上に共通する植物名の頭の部分、いわば接頭辞にあたるものを分類・カウントしたことがある(高橋進「植物和名接頭辞考-植物和名の接頭辞にみる自然と人間-」森林文化研究第12巻(1991年12月(財)森林文化協会発行) pp.133-142)。

 s-フジアザミCIMG0525.jpg日本に産する高等植物約7,000種の標準和名(環境庁1987年版)を分類したものだ。この結果では、先の“ハマ”のように、生育場所を示す接頭辞には、52分類、1,006種の植物が該当した。このうち、“ハマ”の接頭辞をもつ植物は、72種だった。

 生育場所を示す接頭辞で、一番種数の多かったのは、“ミヤマ”(深山)の165種、次いで“ヤマ”(山)(“ヤマザト”(山里)、“ヤマジ”(山地、山路)を含む)の115種、“イワ”(岩)79種、“シマ”(島)76種で、“ハマ”はその次、さらに“タカネ”(高嶺)58種と続いた(注.“シマ”は、“縞”の場合もあり、由来から分類)。

 s-ハクサンチドリ0786.jpgこうしてみると、、低地の植物との違いを示すものとして、山岳地に生育する植物を意味する接頭辞が多いのがわかる。

 具体的な山岳地名のついた植物も多く、67分類、396種にのぼった。単に読みからだけ拾うと、“フジ”が最も多いが、これは「富士」と「藤」の二つの意があるので、それぞれの植物名の由来を個別に当たって分類した。

 s-トウゴクミツバツツジCIMG0370.jpgこの結果、山岳地名で一番多いのは“イブキ”(伊吹山)の22種で、「富士山」に由来する“フジ”は19種、次いで“ハクサン”(白山)の18種、“ハコネ”(箱根)16種、“ニッコウ”(日光)15種、“アポイ”(アポイ岳)と“キリシマ”(霧島山)がそれぞれ12種、“アマギ”(天城山)、“オゼ”(尾瀬)、“ヒダカ”(日高山系)がそれぞれ11種ずつだった。

 該当種数第一位の“イブキ”の由来の伊吹山は、石灰岩で形成されているために固有の植物も多く、また関西大都市圏に位置して古くから研究の場にもなっていた。これらのこともあり、イブキジャコウソウ、イブキトラノオなど“イブキ”を冠した植物が多く、天然記念物にも指定され、花の山としても名高く、琵琶湖国定公園にも指定されている。

 s-ムニンツツジ.jpgこのほか、“エゾ”(200種)など地方名、あるいは山岳のほかにも島しょや半島など固有の地名に関連する接頭辞も多い。山岳や島などが多いのは、隔絶された地で自然が残り、また固有種なども多い結果と考えられる。

 s-コマクサCIMG0916.jpgさらに、“イヌ”(79種)などの動物に関連するもの、“アキ”(26種)など季節に関連するもの、さらには色や形状などに関連するものなど、およそ750の接頭辞に分類された。

 これらの分類作業をしたのは今から20年以上も前だ。このために、当時はまだそれほど普及していなかったパーソナル・コンピュータ(当時、3.5インチ・フロッピィが出回り始めた)を購入し、自前でプログラミングをして、休日などに分類・カウントをした。

 結果は、上記のとおり専門誌に掲載されたが、当時は研究者でもなかった私にとって、趣味の域を出なかった。その頃の情熱を、今はどれほど持ち合わせているだろうか。

 昔を懐かしむようでは、やはり齢か。否、こうして昔の結果が財産として活用されているのだから、前向きに良しとしよう。

 閲覧数が多く、関心を持つ読者が多いようなら、さらに植物接頭辞に着く山岳名のランキングと分布、さらに信仰対象との関係など、地方名ではどの地域が多いか、動物名ではどんな動物が多いか(犬が一番は上記のとおり)、色ではどうか、などなどこれからも続けていこう。少し元気が出そうかな?

 (写真右上) フジアザミ (富士山の名を冠した植物例)(富士山にて)
 (写真左上) ハクサンチドリ (白山の名を冠した植物例)(乳頭山にて)
 (写真右中) トウゴクミツバツツジ (関東を意味する東国を冠した植物例)(日光にて)
 (写真左下) ムニンツツジ (小笠原諸島の無人島を表す“ムニン”を冠した植物例)(小笠原・父島にて)
 (写真右下) コマクサ (動物 駒(こま)=馬を冠した植物例)(秋田駒ケ岳にて)

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コーヒーを飲みながら 熱帯林とコーヒーを考える [生物多様性]

 近くの海岸までの散歩から戻り、ゆっくりとコーヒーを飲んでいるところだ。以前のこのブログで、スマトラの熱帯林が違法伐採されて、コーヒープランテーションとなっていることを報告した(「そのおいしいコーヒーはどこから?」)。

 スマトラ島の南ブキット・バリサン(Bkit Barisan Selatan)国立公園は、トラ、サイ、ゾウなどの希少な野生動物も生息することから「世界遺産」にも指定されているバリサン山脈の一部だ。しかし、公園内を貫通する国道から一歩森林内に入ると、違法侵入者たち(エンクローチメント)により原生林が伐採されて、コーヒーのプランテーション(農園)となっている。かつての原生林の面影を残す太い切り株もある見渡す限りの伐採跡には、細々としたコーヒーの苗が植えられている。(伐採後の光景は、上記ブログ記事を参照されたい)

 s-ロブスタコーヒー00230.jpgコーヒーは、通常は半日陰で栽培されている。しかし、樹木を選択して伐採するのは手間がかかるし、シェード(緑陰樹)の植栽や後片付けも大変だ。そこで手っ取り早い方法として、皆伐して焼き払い、そこに苗を植えることになる。

 私とランプン国立大学の共同研究で衛星画像を解析して森林の減少率を調べたところ、1973年には国立公園の88.6%を覆っていた原生林が、1997年には76.2%に、さらに5年後の2002年に56.5%に、2008年には半分以下の49.2%にまで急激に減少してしまったことが判明した。

 このようにして原生林が減少し続け、これ以上の原生林の減少が続けば、そこに生息する貴重な動物の存続にも赤信号がともる事態になってしまった。2011年には、ついに世界遺産は「危機遺産」として登録されることになってしまった。

 ここで栽培されているロブスタ(Robusta)種は、日射や病害虫にも強く、比較的栽培が容易でもある。しかし、違法でもあり、粗放栽培のため品質も劣ることから、当然価格も安く買いたたかれる。それでも、違法侵入の住民にとっては、貴重な現金収入だ。WWFインドネシアによれば、これらのコーヒー豆は、合法的なコーヒー豆と混ぜられて世界50カ国以上に輸出され、世界的なメーカーのインスタントコーヒーやスーパーで売られているパッケージ入りのブレンドコーヒーなどの原料ともなっているという。要するに増量のためだろう。日本は、米国やドイツなどとともに、このコーヒー豆の輸入大国の一つだというから、私たちが口にしているコーヒーにも、このコーヒー豆が含まれているかもしれない。

 s-認証マーク.jpgこうした熱帯生物多様性の保全や地域社会の安定などの観点から製品をチェックし、「フェアトレード」や「レインフォレスト・アライアンス」などの認証を受けたコーヒー豆も出回るようになってきた。日本の大手コーヒーメーカーやコーヒーチェーンでも、積極的にこれらの認証コーヒー豆を扱う取り組みが増えてきた。

 日曜日には、安心して、コーヒーをゆっくりと味わいたいものだ。

 (写真上)原生林の伐採跡地のコーヒー豆(南ブキット・バリサン国立公園にて)
 (写真下)認証マーク(左:フェアトレード、右:レインフォレスト・アライアンス)
 (いずれも、各WEBより:フェアトレード情報室http://www.fair-t.info/ft-label/label1.html;レインフォレスト・アライアンスhttp://www.rainforest-alliance.org/ja/certification-verification

 (関連ブログ記事)
 「そのおいしいコーヒーはどこから? -スマトラ島の国立公園調査
 「そのエビはどこから? -スマトラ島のマングローブ林から(2)
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熱帯林の空中散歩 -熱帯林の調査研究 [生物多様性]

 まだ日の出前というのに、少しでも動き回ると汗が吹き出す。そんな熱帯雨林の林内から抜け出すと、さわやかな風が流れ、霧の海原に樹冠が墨絵のように遠くまで浮かんでいる。熱帯特有のけたたましい鳥の鳴き声やギボン(テナガザル)の吠え声が、足元から沸き起こってくる。マレーシア半島部パソ保護区の森で、高さ50mの樹冠観察用タワーに上った時の光景だ。別の時には、ホーンビル(サイチョウ)というくちばしの巨大な鳥のつがいが空を舞い、枝にとまるのも観察できた。

 s-樹冠01564.jpg生物多様性の宝庫と言われる熱帯雨林には、実に数多くの生物が生息している。樹木も高さ30mから50mもの高木になり、何層かを形成している。ちょうど山に登ると標高によって植物の種類が変わる(植生の垂直分布)のと同様に、熱帯林では林床から高木の先(樹冠)までのそれぞれの高さで生物相も変化する。花が咲き、実がついても、地上からでは観察することもできない。最近では地球温暖化の関係もあり、呼吸や光合成を行う葉をつけた樹冠への関心も高い。

 かつて、熱帯林での生態研究者は、ロッククライミングのようにロープで樹上まで登って観察した。それを効率よくするために、さまざまな工夫がなされてきた。気球で少しずつ高度を上げて観察する方法もあるが、空間がないとバルーンの使用はできない。高層ビルの工事現場でみかけるようなクレーンで樹冠を観察しているところもある。しかしこれだと、クレーンのアーム(腕)の長さの範囲しか観察できない。日本の山でみかける集材機のように、谷に索道をかけてそこにリフトをつけて移動しながら観察する方法もとられている。

 s-キャノピータワー01527.jpgs-キャノピーゴンドラ.jpgいろいろな工夫と試行錯誤がなされてきたが、日本人研究者もよく訪れるマレーシアでは、先ほどの半島部パソやボルネオのランビルなどで、何本かのタワーとそれらを結ぶ回廊が設置されている。タワーは、高木にやぐらを組んでテラスをつけたものだが、最近では独立したパイプ組のものも建設されている。そのタワーを吊り橋のような回廊で結んで、そこを歩きながら樹木の葉や実、昆虫などを観察・研究するのだ。回廊は英語ではキャノピー・ウォークウェイ(canopy walkway)と呼ばれるが、まさに樹冠・林冠の空中散歩道といったところだ。しかし、工事現場の足場のような階段を登るのも、50mもの高さとなると疲れるし、コケで滑るところもあり、なかなかスリルもある。ときには踊り場にヘビが休んでいることもあるという。もちろん、ウォークウェイも足を踏み外したら大変だ。時には命綱をつけないと使用させてもらえない施設もある。

 近年では、こうした研究用の観察施設がエコツアーに使用されることも多い。エコツアー用にわざわざこのような施設を設置しているところもある。エコツーリズムが盛んな中米コスタリカでは、観光客が小型のゴンドラから林冠を眺めることもできる。モンテベルデ国立公園では、フィールドアスレチック場にあるようなロープに付けた滑車にぶら下がって樹上を移動するスリルも味わえる。その名もスカイウォークと呼ばれている。

 s-キャノピーウォークウェイ4260569.jpgインドネシアのグヌン・ハリムン・サラック国立公園では、私がJICA生物多様性プロジェクトの初代リーダーをしていた際に、チカニキのリサーチ・ステーションに隣接してキャノピー・ウォークウェイを設置した。当初はもちろん研究用に使用されていたが、その後は維持経費ねん出のためもあってか、エコツーリズム観光客にも開放するようになった。それだけではない。ついにはジュラルミンの足場が盗まれてしまい、使用できなくなってしまった。

 熱帯林の空中散歩も、研究者だけの特権ではもったいないが、さりとて研究に支障が出たり、事故が起きては元も子もない。

 (写真上)雲海に浮かぶ樹冠(パソ保護区の観察タワーから)
 (写真中)観察タワー(パソ保護区・マレーシア)
 (写真下)キャノピー・ウォークウェイ(グヌン・ハリムン・サラック国立公園・インドネシア)
 (写真左)エコツーリズム樹冠観察用ゴンドラ(コスタリカ)
 
 (関連ブログ記事)
インドネシア生物多様性保全プロジェクト2 (調査研究活動)
インドネシア生物多様性保全プロジェクト1
熱帯林の消滅 -野生生物の宝庫・ボルネオ島と日本


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バーベキュー炭もマングローブから:マングローブの生活資源 -スマトラ島のマングローブ林から(3) [生物多様性]

 このところ急に朝晩の気温が下がり、昼間の時間が短くなってきたこともあり、肌寒さを感じる。こうなるとやはり、炬燵(こたつ)にでも入って食べるおでんや鍋物が恋しくなる。この書き出しで、先月には「雑木林と薪炭」のブログ記事をアップした。今では真冬の寒さで、ますます熱いものがほしくなる。

 ところで、前回の薪炭は日本の関東地方が舞台だったが、今度は熱帯のマングローブ林が舞台だ。

 s-マングローブ違法伐採0437.jpgマングローブ林が、津波の防止に役立ったり、エビを含む稚魚の成育の場となっていることは、このブログ記事ですでに紹介した(「津波とマングローブ林再生」「そのエビはどこから?」)。それ以外にも、マングローブは様々な形で地元の人の生活の役に立っている。特に、多くの生物資源を提供してきた。

 すぐに思いつくのは木材としての利用だろう。腐りにくいマングローブの木材は、船、桟橋、家屋などに利用されてきた。タンニンを含む樹皮は、製革(皮なめし)や染色にも利用された。さらに、発疹の治療薬、下痢止めや防腐剤などの伝統的医薬品としても利用されてきた。また、ニッパヤシなどは、屋根材や壁材として、あるいはその繊維を利用してカゴや漁網の材料ともなってきた。(ニッパヤシは、ふつうイメージするマングローブとは異なるが、潮間帯に生育する植物の総称をマングローブいうことからこれに含まれる。)

 こうした生物資源としての直接的利用の中で、今日でも大々的に利用されているのは燃料としての薪炭利用だろう。マングローブ林の生育する沿岸地域の集落、住民の中には、まだまだ貧しい生活を送る人々も多い。電気や石油などの燃料を手に入れることができない彼らには、マングローブが有力な燃料となる。

 s-マングローブ違法伐採0450.jpgそれだけではない、マングローブから生成された炭は、日本にも輸入され、バーベキューなど私たちの楽しみのために利用されている。今はシーズンオフだろうが、夏のシーズンともなるとホームセンターなどのアウトドア用品売り場には、レジャー用の木炭として、安いマングローブ炭がうず高く積まれる。

 エビの輸入による、いわば間接的なマングローブ林の破壊だけでなく、薪炭のための伐採による直接的な破壊にも、私たちは関与していることになる。私たち日本人のおいしい料理やレジャーといった、いわば豊かな生活は、遠く離れた熱帯地域のマングローブにも支えられているのだ。忘年会の炭火焼き魚や焼き鳥の炭は大丈夫かな?

 (写真上)燃料用に違法伐採されたマングローブ
      証拠品として警察の立ち入り禁止ベルトが張られている(インドネシア・スマトラ島にて)
 (写真下)マングローブの違法伐採跡(インドネシア・スマトラ島にて)

 (関連ブログ記事)
 「武蔵野の雑木林と炭
 「そのエビはどこから? -スマトラ島のマングローブ林から(2)
 「津波とマングローブ林再生 -スマトラ島のマングローブ林から(1)
 「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)
 「熱帯林の保全 それとも遺伝子組換え食品? -「生活の中の生物多様性」講演の反応
 「熱帯林の消滅 -野生生物の宝庫・ボルネオ島と日本
 「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全
 「南スマトラ調査


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地球温暖化と生物多様性 [生物多様性]

 11月28日から南アフリカ共和国のダーバンで、国連気候変動枠組条約(地球温暖化防止条約)の第17回締約国会議(COP17)が開催される。ポスト京都議定書の枠組みを決める重要な会議で、世界の関心も高い。

 会議が開催されるダーバンは、南アフリカの海岸沿いのリゾート地で、2010年にサッカーのワールドカップも開催されたことから、アフリカ諸国の都市の中では日本でも比較的知られているほうだろう。私も、2003年に開催された「第5回保護地域会議(世界国立公園会議)」参加のために訪れたことがある。今ではどうか知らないが、当時は世界でも有数の犯罪率が高い都市として有名だった。なにしろ、会議資料を日本に郵送するため、ホテルから目と鼻の先の郵便局に行こうとした際、ホテルのボーイが飛んできて、危険だからとわざわざボディーガードに付いてきたほどだ。そういえば、ワールドカップの際にも、武装集団強盗などの犯罪被害にあわないように警告が出されていた。幸い大きな被害はなかったようだが。

 ところで、本ブログのテーマでもある生物多様性と地球温暖化とは、どのような関係があるのだろうか。先の第5回世界保護地域会議でも、生物多様性条約と地球温暖化は取り上げられた。この両者の関係を概観してみよう。

 地球温暖化と生物の関係ですぐに思いつくのは、テレビ映像などで繰り返し流される氷山の崩壊によって追いつめられる北極海のシロクマだろう。国内でも、北海道のアポイ岳などの高山植物生育地が温暖化によって後退(標高が上昇)していることや、ナガサキアゲハ、クマゼミなど西南日本に分布していた種が、関東地方にまで北上していることなどが報告されている。ほかにも各地で、もともとは南方産の魚の漁獲が増加しているという。そもそも日本各地のシカの増加は、天敵のニホンオオカミの絶滅に加えて、温暖化による積雪の減少の影響が大きい。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書(日本版)には、これらの実態や予測が記載されている。日本の「生物多様性国家戦略2010」でも、生物多様性の危機として、地球温暖化による生物多様性への影響が挙げられている。

 s-森林焼失050.jpgこれらの地球温暖化による生物多様性への影響、すなわち矢印の方向でいえば温暖化から生物多様性に向かう関係、のほかに逆の関係もある。こちらは、温暖化の原因ともなる二酸化炭素の吸収源としての森林などが減少・劣化する、あるいは木材に蓄積されていた二酸化炭素が燃焼によって放出されるものだ。先の矢印の向きは、生物多様性から地球温暖化になる。

 地球の肺とも称される熱帯林は、特に20世紀以降、急速に破壊されている。かつて私が「JICA生物多様性プロジェクト」リーダーとして滞在したことのあるインドネシアでも、ゴム、茶、ヤシ、コーヒーなどのプランテーション造成のために原生林が伐採されていた。伐採された樹木は造成に邪魔なことから、手っ取り早く処分するために焼却された。また、その火は予定外の森林にまで拡大し、森林火災を招いた。その煙は空を覆い、飛行機の運航に支障を与え、車は昼間でもヘッドランプを使用せざるを得ないなど、隣国のシンガポールなどにまで煙害(ヘイズ)をもたらした。

 こうした途上国での森林の減少・劣化による温室効果ガス(二酸化炭素やメタンなど)の排出量を抑制するため、世界ではREDD(Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation)と呼ばれる政策プロジェクトが動き出している。森林減少・劣化の抑制は、新たな吸収源造成のための植林よりも温室効果ガス抑制効果があるとの試算もある。京都議定書では、途上国での植林プロジェクトをCDM(クリーン開発メカニズム)として、温室効果ガスの排出権、クレジットをめぐる一種の経済取引の対象としている。これに代わるREDDの枠組みはまだ定まっていないが、先進国、途上国とも、経済的な効果を期待している。実は私も、環境省の環境研究総合推進費によるREDD関連研究プロジェクトに参加し、国立公園などの保護地域管理と地域社会との関係から森林減少・劣化防止について研究している。

 s-オイルパームプランテーション00762.jpgこれら両方向の矢印の関係をさらに複雑にしている例がある。それは、車からの温室効果ガス排出を抑制するためにガソリンに代わり使用されるバイオ燃料だ。この原料の多くは、パームオイル(ヤシ油)だ。そしてパームオイルは、オイルパーム(アブラヤシ)の実から精製される。日本でもスナック菓子やインスタントラーメンなどの揚げ物をはじめとする食用油や化粧品などにも使用されているパームオイルのため、熱帯林が伐採されてオイルパームのプランテーション拡大が急速に進んでいる。それに加え、バイオ燃料の原料として需要が高まり、プランテーション拡大にともなう森林伐採がさらに拡大しているのだ。

 地球温暖化防止のためのバイオ燃料が、その生成のため森林伐採・焼却によって逆に温室効果ガスの排出を増加させ、さらに吸収源としての森林の減少・劣化を招いている。私たち人間の成すことは、結局のところこの程度なのだろうか。経済性と温室効果ガス抑制だけを追い求めた原発の行く末が、それを示している。


 (写真上)熱帯林がプランテーション拡大のために伐採されて焼却されている(グヌン・ハリムン・サラック国立公園隣接地(インドネシア西ジャワ州)にて)
 (写真下)見渡す限りのオイルパーム(アブラヤシ)のプランテーション(グヌン・ハリムン・サラック国立公園隣接地(インドネシア西ジャワ州)にて)

 (関連ブログ記事)
 「熱帯林の保全 それとも遺伝子組換え食品? -「生活の中の生物多様性」講演の反応
 「熱帯林の消滅 -野生生物の宝庫・ボルネオ島と日本
 「アバター  先住民社会と保護地域
 「愛知ターゲット 保護地域でなぜ対立するのか -COP10の背景と課題(4)
 「生物多様性国家戦略 -絵に描いた餅に終わらせないために
 「インドネシア生物多様性保全プロジェクト1
 「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全
 「国立公園 人と自然(番外編3) クルーガー国立公園(南アフリカ共和国) -サファリの王国と地域社会


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武蔵野の雑木林と炭 [生物多様性]

 このところ急に朝晩の気温が下がり、昼間の時間が短くなってきたこともあり、肌寒さを感じる。こうなるとやはり、炬燵(こたつ)にでも入って食べるおでんや鍋物が恋しくなる。こういうと、歳がバレてしまう(いや、プロフィールで当の昔にバレているが)。なにしろ、最近ではおでんもコンビニで買うものらしいし、エアコンがあれば炬燵など必要がない。

 s-雑木林落ち葉かき0923.jpg私が子供の頃、我が家では炬燵ではなく、燃料に炭団(たどん)を用いた行火(あんか)なるものを使用していた。炬燵にしろ、行火にしろ、燃料は炭団や炭だ。炊事や暖房に、今のように石油や電気などが使用される前には、もっぱら薪や炭を使用していた。しかし最近では、“炭”を目にすることもめっきり少なくなった。最近でも、夏休みのキャンプでは、バーベキューなどで炭を用いることもあるかもしれない。しかし、茶道でも、湯を沸かすのに炭を使うことも少なくなってきた。炭を日常的に使用しているのはせいぜい、焼鳥屋などくらいだろう。通勤路の駅の近くにも、「備長炭使用の店」の看板を掲げた店があるが、看板が盗まれるせいか、夜の営業時間にならないと外には掲げないため、まだ写真を撮っていない。

 炭には、ウバメガシから生産した備長炭のほかにも、様々な木材が使用されてきた。竹炭もある。最近は燃料としてだけではなく、炭の多孔性を利用して、水質浄化や湿度調整にも利用されている。我が家でも、床下に調湿用の炭を入れている。

 s-クヌギ炭0621.jpgもっぱら燃料として使用されていた江戸時代、その薪や炭(薪炭)を江戸に供給していたのが「武蔵野の雑木林」だ。那須火山や富士山、浅間山、赤城山などの火山灰で構成された関東ローム層に厚く覆われた洪積台地では、昔から萱の草原が広がり、馬などを飼育していた。徳川家康の江戸入城以来、人口が増加すると食料と共に炊事の燃料も不足した。そこで、草原の武蔵野にクヌギやコナラを植林して、薪炭の生産地としたのだ。

 埼玉県東南部に位置する私の勤務する大学の敷地内や周辺にも、薪炭林の名残のクヌギやコナラの林が残っている。しかし、現代では薪炭供給の役割もなくなり、ヤブとなって荒れ果てている。そうなると、ゴミ捨て場になり、結局は伐採して駐車場にでもしてしまおうということになる。

 環境省などが策定した「生物多様性国家戦略2010」では、生物多様性の4つの危機の一つとして、生活様式の変化による身近な自然の変化や喪失を掲げている。雑木林の変化は、まさにこの危機の例だ。

 s-雑木林ゴミ捨て禁止看板0613.jpg巨樹も含め、我が国の多様な自然は人と自然との相互作用で成立してきたものが多い。これからも、自然との繋がりを大切にしていきたいものだ。建物が密集した都会では、煙や臭いを気にして炭を使って七輪でサンマを焼くことさえもできなくなってしまった。

 (写真上)雑木林で堆肥用に落ち葉かきをする近隣の農家の人(大学敷地内にて)
 (写真中)クヌギの炭(春日部市内の炭店にて)
 (写真下)荒れ果てた雑木林には、ゴミ捨て禁止の看板も(大学隣接の雑木林にて)

 (関連ブログ記事)
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そのエビはどこから? -スマトラ島のマングローブ林から(2) [生物多様性]

 相変わらずの円高が止まらない。円高なら輸入品は安くなるはずだが、一般消費者が購入するときにはその実感は薄れる。「円高還元セール」をもっと大々的に実施してほしい。そう、かつても「円高還元セール」で価格が安くなり、一般の人々に行き渡るようになったものがある。その一つが、「エビ」だ。

 s-パサールCIMG0028.jpg年配の人なら記憶していると思うが、かつて日本では、エビは高級食材だった。わが家が別に貧しかったわけでもないが、天丼(えび天)なんて年に数回食べることができたかどうか。高度経済成長の時代とはいえ、贅沢をしない限り多くの日本人がそんな感じの生活をしていたと思う。日本でのエビ料理の材料は、ほとんどがトロール漁などによる天然エビだったのだ。

 s2-ブラックタイガーImage0791.jpgそんなエビが、庶民の口に上るようになったのは比較的最近のことだ。年々生活が豊かになってきた日本人には、かつての高嶺の花だったエビへの願望が強くなった。1960年代にはエビも輸入が自由化され、輸入量も少しずつ増加してきたが、まだまだ値が高く高級食材だった。トロール漁による根こそぎの天然エビ捕獲は資源の枯渇を招き、沿岸国では捕獲規制も始まり、価格も高騰することになった。それに変化が起きたのは1980年代に入ってからだ。エビ養殖技術と冷凍技術の発展により、エビの輸入量は増加してきた。そこに円高が重なり、スーパーなどでは「円高差益還元セール」と銘打って、東南アジアからの輸入ブラックタイガーが安売りされた。

 それ以来、私たちは安価にエビ料理を食べることができるようになった。丼物のファストフード店では、エビ天が2本も入った天丼を抵抗なく食べることができる。駅の立ち食いソバにも、エビ天ぷらが入っている。学生食堂でも、エビフライは定番メニューだ。

 s-エビ養殖池CIMG0600.jpgしかし、私たちが手軽にエビを食べることができる陰には、東南アジアのマングローブ林破壊もある。東南アジアの汽水域に広く分布するマングローブ林内の水域には、養分も豊富でプランクトンも多い。このため、古くからマングローブ林の一部に池を作り、そこで稚エビを養殖することが行われてきた。日本などにエビが(地元の人々にとって)高値で売ることができるとなると、少しでも生産量を上げるために養殖池の面積を増やしたいと思うのも人情だ。

 こうして、マングローブ林の伐採面積は拡大して、急速にエビ養殖池に転換されていった。生産効率を上げるために、エビの飼料や病気抑制の薬品などが投入されるようになると、水質汚濁などの問題も生じた。その後、養殖池もコンクリートで覆われ、水中に酸素を送り込むための曝気装置も供えられた集約的な養殖形態に変化していったが、多くの養殖池がかつてのマングローブ域であることには変わりない。

 スマトラ島でも、海岸部のマングローブ林は薪炭材やエビ養殖池造成などのために伐採された。ここで養殖されたブラックタイガーなどのエビは、安くて手軽なエビの天ぷらやフライとして、日本の外食産業や家庭の食卓を飾っている。あなたが食べたエビは、どこから来たのだろうか。

 (写真上)パサール(市場)で売られるエビ(スマトラ島にて)
 (写真中)日本のスーパーで売られているインドネシア産タイガーエビ
 (写真下)マングローブ林を伐採して作られたエビ養殖池(スマトラ島にて)

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 「熱帯林の保全 それとも遺伝子組換え食品? -「生活の中の生物多様性」講演の反応
 「熱帯林の消滅 -野生生物の宝庫・ボルネオ島と日本
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 「南スマトラ調査
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津波とマングローブ林再生 -スマトラ島のマングローブ林から(1) [生物多様性]

 あの大地震と津波の3月11日から4か月。被災地ではまだまだ復興への道のりは遠い。陸前高田市の高田松原に唯一残った1本の松は、人々の希望の象徴となっている。

 津波といえば、2004年12月のスマトラ沖大地震に伴う津波で人々が流されていく映像も脳裏に焼き付いている。インドネシアでも、沿岸部に分布するマングローブは、これまで高潮の被害などを軽減してきた。しかし、燃料採取やエビ養殖池造成などのためにマングローブ林は減少してきている。

 s-マングローブ植林00898.jpg私が研究でしばしば訪れるスマトラ島南部のランプン州沿岸のマルガサリ地区でも、マングローブ林の減少による高潮で、沿岸部にあった小学校校舎が被害を受けたという。そこで州政府は沿岸堤を整備し始めた。沿岸堤とはいっても、わずか数メートルの高さの石積みで、満潮時に海水が浸入するのを防ぐ程度のものだろう。

 研究協定を結んでいる国立ランプン大学では、マングローブセンターを設置してこの地区のマングローブ再生なども実践している。今年の2月には、共栄大学学生とランプン大学学生とでマングローブ植林を行った。この時には、図らずも地元小学生も参加してくれた。現地に着くまで、その情報はまったく知らなかったので、小学生たちの歌による大歓迎を受けて戸惑ってしまった。

  マングローブは、人々の生活に様々な恩恵を授けてくれる。その一部の経済的な効用だけからマングローブを伐採し、人工物により残りの機能を代替させようとするのは、やはり人間の思い上がりではないだろうか。

 s-マングローブ植林地0424.jpg一緒に植林をしたマングローブが一日も早く豊かに成長してほしい。小学生たちの明るい笑顔のように、彼らの未来もマングローブとともに明るく歩むことができることを願ってやまない。そして、日本の高田の一本松も、明るい未来の象徴となることを切に願う。

 (写真上) 小学生たちとのマングローブ植林(後ろの石積みが沿岸堤)(インドネシア・スマトラ島にて)
 (写真下) 以前に植林したマングローブ(インドネシア・スマトラ島にて)


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熱帯林の保全 それとも遺伝子組換え食品? -「生活の中の生物多様性」講演の反応 [生物多様性]

 人々は、日本の日常生活がもたらす熱帯林の破壊よりも、直接的な遺伝子組換え食品のほうに関心が強いようだ。

 先週、大学公開講座で「生活の中の生物多様性 ~食料、薬品などの生物資源をめぐる国際攻防~」と題する講演をした。昨年の名古屋COP10で関心の高まった「生物多様性」をめぐる国際関係について、コロンブスの大航海時代から現代のバイオテクノロジーの時代までの私たちの日常生活との関連から、生物多様性の意味、条約をめぐる国際間の駆け引き(南北問題)などを海外で撮影したスライドなどを示しながら解説した。

 s-オイルパームプランテーション00762.jpgとくに、COP10の成果である「愛知目標(ターゲット)」「名古屋議定書」「名古屋・クアラルンプール補足議定書」から、それぞれ「生物多様性の保全」「遺伝資源へのアクセスと利益の配分(ABS)」 「遺伝子改変生物・遺伝子組み換え食品」について、私たちの日常生活との関連を示した。たとえば、日本で生産されるスナック菓子などに使用されるパーム油のためにオイルパームなどのプランテーションが拡大されて熱帯林が破壊されていること。先住民の生活の知恵である自然生薬が製品化されて、私たちはその薬品を使用して多国籍企業には莫大な利益をもたらすが、原産国には利益が還元されないばかりか知的財産権のために伝統的な利用も危うくなること。除草剤耐性作物など遺伝子組換え食品・生物の安全性が議論になり、「カルタヘナ議定書」や「名古屋・クアラルンプール補足議定書」が作成されるまでに長い年月がかかったこと。

 つい先日、講演後に聴衆から集めたアンケートの集計結果が送付されてきた。 これによると、「遺伝子組換え食品」に関心が寄せられているようだ。私としては、むしろオイルパームや茶畑、ゴム園などのプランテーションやエビ養殖などによる熱帯生態系の破壊の一因が私たちの日常生活にも関連していることを訴えたかった。そして、私たちを含めた先進国の生活を支えるために、特に多国籍企業の知的財産権の主張のために、原産国である途上国住民の伝統的な生活が維持できなくなっていることを訴えたかった。

 自分の意図と相手の反応が異なることはよくあることだ。 話術が未熟だといえばそれまでかもしれない。日常生活にとどまらず、一国の政治の世界、いや世界の国同士の折衝の場でも起こりうることだ。時として、誤解では済まない事態を招くことになる。これが政治の世界では、その被害は計り知れない。

 一方で、今回のアンケート結果には、丁寧な解説で、難しそうな生物多様性がよくわかり、目からうろこが落ちたような思い、との感想も多く寄せられていた。 私が今回の講演でもっとも意図したのはこの点だ。その意味では、ホッとしている。終わりよければ、すべて良し。まっ、いいか。「生物多様性をわかりやすく解説する」ことを目指しているこのブログを続ける元気も出てきた。

 (写真) 一面のオイルパームのプランテーション(インドネシア・ジャワ島)

 (関連ブログ記事)
 「遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5)
 「愛知ターゲット 保護地域でなぜ対立するのか -COP10の背景と課題(4)
 「名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3)
 「ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2)
 「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)
 「MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって
 「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで
 「金と同じ高価な香辛料


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『生物多様性をめぐる国際関係』出版 [生物多様性]

 本ブログのメインテーマの一つでもある「生物多様性をめぐる国際関係」が出版された。私も、共著者として参画している。
 『生物多様性をめぐる国際関係』毛利勝彦編著、大学教育出版 2011年5月31日発行、2600円(+税)

 s-書籍01215.jpgこの出版は、国際基督教大学(ICU)社会科学研究所が「国際生物多様性年シリーズ公開講演会」として2010年に実施した講演をベースにして取りまとめたものだ。本書編著者の毛利勝彦教授の講義は、NHKの日本版白熱教室にも取り上げられるほどだ。聴衆でもある学生も熱心に質問をし、惰性に流されがちな普段の授業に比して久しぶりに緊張感のある講義となった。後日送られてきた学生のコメントペーパーにも、参考となることが多く記載されていて、私としてもむしろ勉強になった。

 私は、「生物多様性と地域開発」をテーマに与えられ、昨年10月に講演をした。大学では「地域開発論」の講義もしているが、生物多様性と国際関係をキーワードにして「自然保護地域をめぐる国際関係」とでもいうような内容とすることとした。生物多様性保全のホットスポットでもある熱帯地域など途上国では、保全と開発をめぐる相克が続いてきた。名古屋COP10で採択された「愛知ターゲット(愛知目標)」では、保護地域の面積割合を陸上では17%以上とすることなどが合意されたが、まとまるまでにはいわゆる南北の対立があった。その対立の原因、理由および保護地域と地域社会の関わりなどから、貧困解消を含む地域開発と生物多様性保全との関係について、保護地域を舞台に語ってみた。内容は、「愛知ターゲット 保護地域でなぜ対立するのか -COP10の背景と課題(4)」をはじめ、本ブログでもたびたび取り上げてきたことだ。

 今回の出版物では、私のほかにも幅広い分野の方々が、「生物多様性をめぐる国際関係」について執筆されている。私の執筆した『第9章 生物多様性と地域開発 -愛知ターゲットと保護地域ガバナンス-』も、 前述のとおり断片的には本ブログでも取り上げているが、さらにアフリカやインドネシアでの保護地域と地域社会との関係の変遷などの事例を多く取り上げた。本書でまとまった、体系的な内容をぜひご覧いただきたい。

 ところで、なぜ私がICUの講演会に登場することになったのか。 もちろん、主催者である毛利教授からのお声掛けがあってのことだが、そのきっかけはどうやらこのブログとのことだ。本ブログをご覧になり、私の研究内容や生物多様性と国際開発援助などの論文・著作などに関心を持っていただき、講演依頼となったらしい。このブログも、まんざら捨てたものでもない。

 (写真) 『生物多様性をめぐる国際関係』

 (関連ブログ記事) 
 本ブログのマイカテゴリー 「生物多様性」や「保護地域 -国立公園・世界遺産」などすべて!!の記事


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遺伝子組み換え生物と安全神話 名古屋・クアラルンプール補足議定書をめぐって -COP10の背景と課題(5) [生物多様性]

  このたびの東日本大震災とともに、原子力発電所の安全神話は一気に崩れ去った。フクシマの脅威は世界を駆け巡り、各国の原発政策にも大きな影響を与えている。何事にも過信は禁物だし、“絶対”というものも存在しないことを思い知らされた。

 実は、生物多様性条約(CBD)をめぐる議論でも、“安全性”に関して長い間対立が続いてきた。それは、「バイオテクノロジー(バイテク)」により改変された生物、すなわち「遺伝子組み換え生物」(生物多様性条約ではGenetically Modified Organism: GMO、カルタヘナ議定書ではLiving Modified Organism: LMOを使用。このブログ記事では、以下LMO。)に関する安全性“バイオセイフティ(biosafety)”だ。CBDでは、第8条および第19条で取り上げている。CBDの成立が提唱された当初は、バイオセイフティに関する条項は含まれていなかった。それが、条文に位置づけられるようになった背景には、遺伝資源をめぐる先進国と途上国の対立、いわゆる南北問題がある。

 以前のブログ記事「生物資源をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで」などでも取り上げたとおり、遺伝資源やバイオセイフティ関連の条文は主として途上国の主張により挿入された。熱帯などの途上国に存在する生物資源から、先進国(実際には主に米国などの多国籍企業)は食料品や医薬品などを製品化して大儲けしている。その過程で、バイテクによる遺伝子組み換えも行われる。途上国は、原産国としての途上国に利益を還元し、遺伝子組み換えなどの技術も移転すべきだと主張した。先進国は、野放図な利益還元はできないし、知的財産権保護からも、途上国の主張を拒否し、多国籍企業の議会への圧力を背景にした米国は、いまだにCBDを批准していない。

 バイテクの安全性についても、自国で生産する技術のない途上国は、LMOが自然界に放出されると生物多様性に影響があるとして、その安全性の規定を条文に盛り込むべきだと主張した。一方、LMOを作り出している先進国(多国籍企業の意向を受けて)は、安全に配慮してLMOを取り扱っているから問題ない、それどころかバイテク産業への過剰な干渉だとして、規制に反対してきた。結局対立は解消されないまま、CBD成立時には妥協の産物として、今後安全性に関して条約(議定書)を検討する旨が盛り込まれた。ここまでが、本ブログ記事「遺伝子組み換え生物と安全神話」の背景のおさらいだ。  

 CBDを受けた「カルタヘナ議定書」(2000年採択)では、LMOが知らぬうちに国内に蔓延しないよう、安全性(バイオセイフティ)の観点から国境移動などについての手続きを定めた。しかし、輸入国などにおいて生態系などに影響(被害)を与えた場合の補償など(責任と救済)については意見がまとまらず、議定書条文では国際規則などを4年以内に定めることとされていた。

 COP10に先立つMOP5(本ブログ記事「MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって」参照)で採択された「名古屋・クアラルンプール補足議定書」は、「カルタヘナ議定書」ではまとまらなかった原状回復や賠償などについてのルールを定めている。すなわち、輸入国などでLMOによる交雑や原産種の駆逐など生態系への影響が生じた場合には、輸入国政府はそのLMOの製造・輸出入事業者などを特定し、原状回復や損害賠償、さらには賠償のための基金創設などを求めることができるとするものだ。なお、議定書交渉が難航した原因の一つに、LMOの範囲としてLMOを基にした生成物(派生物)も含めるかどうかの対立があったが、最終的には生成物も対象となった。

 s-大豆製品01133.jpgところで、なぜLMOの安全性に関して合意されるまで、こんなに時間がかかったのだろうか。現実に、遺伝子組み換え大豆などは日本にも輸入され、遺伝子組み換えのナタネの種が、日本各地で見つかっているという。生態系への影響はないのだろうか。これまでも品種改良は昔から行われてきた。しかし決定的に異なるのは、品種改良は自然の摂理に基づいていることだろう。確かに、レオポン(leopon)(雄ヒョウと雌ライオンの雑種)など、自然界では生じることのない種を人間は作り出した。しかしそれは、地理的環境などにより自然界では交雑することはほとんどないだけで、同じネコ科同士で生物学的には近縁だ。また一代雑種F1には子孫を残す能力はく、仮に自然界に放出されても生態系には影響はないようだ。もっともこれも、繁殖能力がないとも言い切れないようだから、話は複雑だが。

 一方、LMOはわけが違う。自然の摂理を離れた、いわば神の領域にまで人間が踏み込んだ結果だ。その影響は計り知れない。生態系だけでなく、人間の健康にも影響は及ぶだろうが、想定さえもつかない。しかし、国内でもこの議論の当初は、LMOは実験室や圃場など閉じられた空間で、個別の取扱要綱に基づき安全性には配慮して慎重に扱っているので、新たな法律などによる規制は必要ない、と関係当局が主張していたのを私は覚えている。その構造は、世界の南北対立の議論と同じだ。

 これって、原発の“絶対安全”の主張、「安全神話」とどこが違うのだろう。かつて、自然界に存在しない物質フロンを創造し、その利用価値から夢の物質とまで称讃されたにもかかわらず、それがオゾン層破壊の元凶となった経験を私たちは忘れてはならない。私たちの現代科学、人間の知恵とはその程度なのだ。

 このたびの原発事故では、いまだに自宅に帰ることもできない方々も多い。風評被害や節電の影響も、農業、工業を問わず、また日本のみならず世界的にも甚大な影響を及ぼしている。これを契機に、当事者の言う「安全性」をもう一度検証するとともに、安全を主張する側は皆が納得するだけの情報開示をしてもらいたいものだ。

 遺伝子組み換えでも同じことが言えるだろう。安全神話は、慎重になってもなり過ぎることはないだろう。その結果、物事の進み具合が遅くなっても、焦らずのんびり行こうではありませんか。この際だから。

 (写真)日本の食卓に多い豆腐や納豆などダイズ製品には、「遺伝子組換えダイズは使用していません」の表示があるが・・・

 (関連ブログ記事)
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愛知ターゲット 保護地域でなぜ対立するのか -COP10の背景と課題(4) [生物多様性]

 名古屋で開催された生物多様性条約COP10の成果の一つ、生物多様性の保全目標などを定めた「愛知ターゲット」も、遺伝資源のアクセスと利益配分(ABS)のルールを定めた「名古屋議定書」と同様に、最後の最後まで論争が続いた。生物多様性の保全は、世界の誰もが賛同するはずなのに、なぜ対立が生じるのか。愛知ターゲットの20項目の一つで、最大の焦点でもあった「保護地域」について考えてみる。

 生物多様性条約(CBD)では、保全のための主要な手段として「生息域内保全」を定めている(第8条)。これは、多様な生物や生態系を自然状態で保全しようというものだ。その中核的な方法として、保護地域を定めてできるだけ人間の影響などを排除して保全することも示されている。ちなみに、「生息域内保全(in-situ conservation)」でも危うくなった生物種などの保全のためには、動物園、植物園、さらにはシードバンク(種子銀行)などの人間の管理下で保護することも必要だ。これを条約では「生息域外保全(ex-situ conservation)」と定めている(第9条)。

 保護地域は、古くは王侯貴族などの狩猟の場や狩猟対象動物の確保(game reserve)のために誕生した。紀元前700年には、アッシリアに出現したという記録もあるという。日本でも、江戸時代の鷹狩のための鷹場や御巣鷹山、あるいは鴨場などが知られている。先日NHKで放映された「ブラタモリ」でも、目黒界隈や現在の東京大学駒場キャンパス、あるいは浜離宮公園などの鷹場などを訪ねていた。鷹場では、建物の新築や鳥類の捕獲などが禁じられていたという。また、有用材の木曽五木を擁する尾張藩では、無断伐採者に対して死罪を含む厳罰で臨んだことも良く知られている。現在では、国立公園や世界遺産地域など、さまざまな種類の保護地域がある。(「意外と遅い?国立公園の誕生 -近代保護地域制度誕生の歴史」、「日本の国立公園は自然保護地域ではない? -多様な保護地域の分類」)

 こうした保護地域について世界中の関係者が集まる会議「世界国立公園会議」が、1962年の米国シアトルを第1回として10年に1度開催されている。その第3回会議(1982年バリ)の会議勧告では、地球上全陸地面積の5%を保護地域にすることを目標としていた。その後、保護地域面積は順調に増加し、第4回会議(1992年カラカス)では目標を10%とした。生物多様性の保全のための「2010年目標」(2002年ハーグCOP6で採択、2004年クアラルンプールCOP7で詳細決定)では、陸域、海域(海域は2012年目標)ともに、10%を保護地域の目標値とした。その後も保護地域の増加は著しく、2008年には、陸上保護地域だけでも全世界で12万か所を超え、地球上の陸地面積の12.2%を占めるまでになった。

 s-生命の宝庫熱帯林0765.jpg保護地域は条約でも規定されるとおり生物多様性の保全に寄与するものであり、熱帯林の消失などに対処するため先進国を中心に保護地域の一層の拡大を求める声は強い。そこで、名古屋のCOP10では、「ポスト2010年目標」として、保護地域の目標を15%に、あるいは20%にする案などが提案され、議論された。一般的には、生物多様性の保全のためには保護地域拡大が有効であることには反対論も少ないはずだと考えられる。しかし、途上国などは、高い目標値の設定には強く反対した。  

 途上国が保護地域面積割合の拡大に反対するのは、一言でいえば、開発などに支障があり、世界の生物多様性保全の恩恵は先進国の受けるのに、保全のために途上国だけが犠牲を強いられていると考えるからだ。こうした考えに基づく南北対立の構図は、制定過程を含む生物多様性条約全般にみることができる。地球温暖化の論争でも同様だ。

 その背景には、植民地時代などの保護地域は、先進国の人々の狩猟や観光などの目的、あるいは単に保護主義による野生生物保護の目的だけのために設定されたもので、地域住民(先住民)には利益はなかったとの思いがある。実際、保護地域内に居住していた住民は、保護地域から追放され、いわゆる米国型(イエローストーン型)の国立公園などとして管理されてきた。(「アバター  先住民社会と保護地域」)

 単に自然状態を維持するだけで森林伐採など資源利用もできない保護地域は、何も利益を生み出さないと途上国は考える。それだけではない、保護地域として管理するためには、保護地域の資源に依存する住民から自然を守るためのレンジャーなど、保護のための費用も膨大なものとなる。こうした点も、途上国の被害者意識を一層高めることになる。数字の上では保護地域面積は増加していても、途上国などでは単に地図上で指定しただけ(地図上公園Paper Park)で、実際には保護地域として管理されておらず、その機能を有していないものがたくさんある。

 途上国としても、生物多様性の「持続可能な利用」には理解を示すようになってきた。そこで、ある程度の保護地域拡大はやむを得ないとしても、保護地域管理のため、あるいは開発を犠牲にした代償として、相当の資金を要求している。しかし、際限ない資金供与の懸念から、先進国は途上国の主張に抵抗している。

 これらの背景と主張がからむ保護地域に関する南北対立も、会期末ギリギリのところで、日本を含む先進国側の援助資金提供の意思表示と、保護地域面積割合を提案されていた案の中間でもある17%とすることで、何とか妥結した。しかし、海域の保護地域については、10%で妥結したものの、日本を含め世界の現状は目標から遥かに遠い。世界全体の海域保護地域は、わずか1%にすぎない。一方で、乱獲や埋め立て開発など、生物多様性への脅威は続いている。

 一口に「保護地域」と言ってもその目的、保護地域内の管理手法などは千差万別であり、生物多様性保全の効果も面積割合だけでは語れない。保護地域の面積だけが増加しても、図上だけで実態のないペーパーパークでは意味がない。資金や技術の援助をすることも先進国の責任の一つだ。また、かつての植民地のように、地域住民だけに犠牲や負担を強いるものであってはならない。生物多様性が保全されることによって恩恵を受ける先進国の私たちも、日常生活からは離れた熱帯林や海域の保護と開発(地域社会)のあり方を真剣に考えたい。それにしても、またまた繰り返される「総論賛成、各論反対」はどうにかならないでしょうかネ。そして、生物多様性条約に未だ加盟していない米国も。

 (写真) 生物多様性の宝庫、熱帯林(コスタリカにて)

 (関連ブログ記事)
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 「日本の国立公園は自然保護地域ではない? -多様な保護地域の分類
 「アバター  先住民社会と保護地域
 「『米国型国立公園』の誕生秘話
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COP10閉幕と記事の流行 -私的新聞時評 [生物多様性]

 名古屋で開催されていた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が、会期ぎりぎりの2010年10月29日深夜(30日未明)に「名古屋議定書」などを採択して閉幕した。COP10に向けて、そして会期中は、「生物多様性」記事(番組)は連日のようにマスコミに登場した。しかし、10月30日付の新聞で「COP10閉幕」が報じられた後は、露出度はぐっと少なくなってしまった。尖閣諸島問題やAPEC(アジア太平洋経済協力)会議などの記事に押しやられた感がある。

 s-COP10新聞DSC00663.jpg2009年に内閣府が実施した「環境問題に関する世論調査」では、「生物多様性」の言葉を聞いたこともない人が61.5%にのぼったというが、このところの新聞などマスコミでの取り上げで、おそらく今日同様の質問をすれば認知度は格段に上がるに違いない。もっとも、「君は生物多様性を知ってるか」と正面切って聞かれて、自信をもって知っていると応えることのできる人は少ないだろう。私も、国内では長く関わってきた方の部類に入るだろうという自負はあるが、知っていると応えるだけの自信はない。今や、生物多様性は生物学から、政治学、経済学、農学、さらには倫理学など広い分野に及んでいる。それどころか文明論的な色彩さえ帯びつつあるのではないだろうか。また、「生物多様性」という言葉自体も、何やら難しそうだ。そこで、環境省など主催者やマスコミは、COP10を「生きもの会議」とも名付け、人々に親近感を持ってもらおうとした。私がブログに生物多様性に関する記事を書き続けているのも、少しでも多くの人に、その一部でも理解してもらい、生物多様性の保全に貢献したいと念じているからだ。

 COP10の内容を吟味し、総括した記事を執筆するには、それなりの時間も要する。私のブログ記事でも、まだそこまでには至っていない。ただ、今の状況、そしてこれまでの過去の状況をみていると、「生物多様性」記事は今後あまり期待できないのではないかと少し悲観的にも思う。限られた紙面、取材スタッフなどの制約から、日々のニュースに追われるのも仕方ない。マスコミも商売である以上、テレビ番組も含め、読者(視聴者)の関心のあることを優先せざるも得ないだろう。しかしそれが、極端ないわゆる視聴率競争になるのも困りものだ。なぜなら、マスコミはまさに世論をも形成するからだ。かつて環境省(当時は環境庁)の記者クラブ所属の記者さんから自嘲気味に聞いた話だが、クラブ在籍記者さんは社会部記者が多く、どうしても事件的な扱いになってしまうという。公害などが、いわゆる“事件”として取り上げられた名残のようだ。事件記者は、次々事件を追いかけるのに精いっぱいかもしれない。もちろん、社会の裏側を含め、真相解明で掘り下げることもある。しかし、生物多様性は、社会現象だけでなく、政治、経済、科学などあらゆる分野に及ぶ。単なる事件、一過性の「生物多様性」記事や番組ではなく、これからも息長く、恒常的に掲載(放映)してもらいたいものだ。

 とかく日本人は、「熱しやすく、冷めやすい」といわれる。流行(トレンド/ブーム)をみていると、確かにその感はある。もともと流行とは移ろうものだが、日本人には特にその傾向が強いようだ。その根底には、均質化した日本の社会では、人々は一種の強迫概念を持って流行を受け入れざるを得ない、ということもあるのではないだろうか。

 テレビ番組なども、視聴率を気にするあまり、どの局の番組も似たものとなっている(少なくとも、地デジ番組は)。これでは、まさに“画一的”で硬直した社会・文化となってしまう。自然界は、多様な生物種が健全に生きている社会(生態系)こそが、病気などの外圧にも強いことを教えてくれている。これがまさに「生物多様性」だ。これに倣って、“多様な”文化、そして個性により、健全な社会の実現を目指したいものだ。そのためにも、「生物多様性」が一過性のものではなく、私たちの生活、そして文明に定着するよう願う。自然から学ぶものは多い。

 (写真)名古屋議定書の採択とCOP10閉幕を第1面で報じる新聞各紙(2010年10月30日夕刊)

 (関連ブログ記事) 「名古屋議定書採択で閉幕 COP10の成果 -COP10の背景と課題(3)
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名古屋議定書採択で閉幕 COPの成果 -COP10の背景と課題(3) [生物多様性]

 生物多様性条約COP10(国連生きもの会議)が、10月29日深夜の「名古屋議定書」と「愛知ターゲット」の採択で閉幕した。直前まで、果たして採択までたどり着けるか疑問視されていただけに、交渉にあたった関係者の苦労と喜びは計り知れない。

 s-名古屋COP10会議場DSC00627.jpg名古屋議定書は、野生動植物などから製品化した薬品などの利益をいかに生物資源の原産国である途上国に還元するか、などの生物の遺伝資源利用の国際的なルール、いわゆる「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)」のルールを定めたものだ。食料品はもとより、医薬品など現代の私たちの生活に欠くことのできない「化学製品」も、本をただせば先住民などの自然界の生物資源の利用にヒントを得て、その成分など遺伝子資源を利用して製品化したものだ。先進国の多国籍企業などは、これらの製品により莫大な利益を上げてきた。しかし、そのもととなる生物資源(遺伝資源)は、大航海時代以来、植民地からヨーロッパなど先進国(宗主国)に持ち出されてきたものだ。途上国は、これを「生物資源の海賊行為(バイオパイラシー)」として非難してきた。(「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)」ほか参照)

 生物多様性条約(CBD)の成立までの交渉でも、各国は生物多様性の保全には異存ないものの、原産国としての権利と保全のための資金を要求する途上国と、企業活動への影響を懸念する先進国との間で、深刻な対立(南北対立)が続いた。CBDはこうした対立の中で、妥協の産物として成立した。(「ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2)」参照)

 これら対立の解決を先送りして成立したCBDは、その後の締約国会議(COP)のたびに、これらの課題の論争を繰り返すことになる。しかし、一定の成果も上がっている。条約発効後の最初の締約国会議、すなわちCOP1は、1994年11月末から12月初めにかけて、リゾート地としても有名なカリブ海のバハマの首都ナッソーで開催され、私も政府代表団の一員として参加した。翌年インドネシア・ジャカルタで開催されたCOP2には、ちょうど生物多様性保全プロジェクトの初代リーダーとして赴任中でオブザーバー参加した。そのCOP1では条約事務局の最終的な場所さえも決まらなかったが、COP2では、海洋生物多様性に関する「ジャカルタ・マンデート」とともに、参加国の喫緊の課題としてLMOの国境を越える移動について「バイオセーフティ議定書」を策定することが合意された。これを受けて、1999年カルタヘナで開催された特別締約国会議では「カルタヘナ議定書」が討議され、翌2000年にモントリオールで再開された会議で採択された。今回のCOP10に先立って開催されたMOP5では、このカルタヘナ議定書を補完して、LMOが輸入国の生態系に被害を与えた場合の補償ルールを定めた「名古屋・クアラルンプール補足議定書」が採択された。(「MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって」参照)

 COPでは地球上の生物多様性保全についても議論が重ねられ、「エコシステム・アプローチ原則」(COP5)や「外来種予防原則」(COP6)、「世界植物保全戦略」(COP6)なども採択されている。また、1992年のCBD成立と同時に条約を目指しながらもUNCEDでの「森林原則声明」にとどまった森林の生物多様性やジャカルタ・マンデートを発展させた海洋生物多様性などが引き続き議論されてきた。

 s-名古屋COP10交流フェアDSC00581.jpgこうした中で、ABSは、COP6において「ボン・ガイドライン」が採択されてはいるものの、法的拘束力のある議定書などにまでは至っていなかった。今回の「名古屋議定書」は、単なるガイドラインと違い、条約としての位置付けのものだ。対立が続いたABSで、拘束力のある国際的なルールが策定されたことの意義は大きい。しかし、途上国が求めた植民地時代など議定書発効前に持ち出されて利用された資源は対象にならず、また改良製品(派生品)は個別契約時の判断となるなど、妥協点も多い。これが今後の運用に影を落とさないことを祈る。

 また、条約発効から10年目のCOP6では、「現在の生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という「2010年目標」が採択された。この目標では、11の最終目標(ゴール)と達成のための21の目標(ターゲット)が掲げられた。今回のCOP10では、この「ポスト2010年目標」も争点の一つとなった。こちらは、20項目の個別目標の「愛知ターゲット」として採択された。

 この「ポスト2010年目標」討議では、特に保護地域の面積割合について、生物多様性保全のためにさらに保護地域を増やすべきとする先進国と、保護地域拡大は開発抑制になるとする途上国の間での対立が続いた。この保護地域論争は、改めて「国立公園・世界遺産」に関するブログで解説したい。

 なにはともあれ、国際生物多様性年、そして2010年目標の最終年に開催されたCOP10で大きな成果があったことは、ホスト国の日本として誇るべきことだ。とかく地球温暖化に比較して認知度の低い生物多様性だったが、先行していた地球温暖化の「京都議定書」に続いて、今回の会議では、「名古屋」あるいは「愛知」の名を冠した議定書や目標が採択された。願わくば、実効性が上がらず、またその後の枠組み(ポスト京都議定書)の期限内制定にも失敗した京都議定書の二の舞は踏まないでほしい。

 (写真上)COP10国際会議場
 (写真下)多くの市民などで賑わった生物多様性交流フェア(国際会議場隣接会場)

 *本稿は、筆者の以下の論文とブログ記事をとりまとめたものです。一部の文章および写真の重複は、お許し願います。

 (関連論文)
 「生物多様性条約はいまどうなっているのか」グローバルネット34(1993年)
 「生物多様性政策の系譜」ランドスケープ研究64(4)(2001年)
 「生物多様性保全と国際開発援助」環境研究126(2002年)
 「国際環境政策論としての生物多様性概念の変遷」共栄大学研究論集3(2005年)
 「IUCNにおける自然保護用語の変遷」環境情報科学論文集21(2007年)
 「世界の国立公園の課題と展望-IUCN世界保護地域委員会の動向」国立公園659(2007年)
 「国際的な生物多様性政策の転換点に関する研究」環境情報科学論文集23(2009年)
 「生物多様性をめぐる国際関係 -COP10の背景と課題」国立公園687(2010年)
 
 (関連ブログ記事)
 「生物資源と植民地 -COP10の背景と課題(1)
 「ABS論争も先送り 対立と妥協の生物多様性条約成立 -COP10の背景と課題(2)
 「MOP5って何? -遺伝子組み換えをめぐって
 「国際生物多様性年と名古屋COP10
 「今、名古屋は元気印? COP10、フィギュアスケート、ドラゴンズ、そして開府400年
 「生物多様性をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで
 「生物多様性国家戦略 -絵に描いた餅に終わらせないために
 「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全
 「金と同じ高価な香辛料
 「熱帯林の消滅 -野生生物の宝庫・ボルネオ島と日本
 「インドネシア生物多様性保全プロジェクト1
 「インドネシア生物多様性保全プロジェクト2
 「インドネシア生物多様性保全プロジェクト3
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