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世界遺産登録 -観光への期待と懸念 [保護地域 -国立公園・世界遺産]

 毎日記録的な猛暑が続いているが、夏休みともなると浜辺でのんびりしたくなる人も多いだろう。東京から船で25時間以上かかる小笠原は、究極の「のんびり場所」の一つだ。その小笠原に今月(2010年7月)初めから中旬まで、世界遺産登録可否の審査のため調査団が来ていた。小笠原諸島は、今年1月に世界遺産への推薦書が、日本政府から世界遺産事務を担当する国連教育文化機関(UNESCO ユネスコ)に正式に送付された。これに基づいての現地調査だ。来年6月ないし7月に開催される予定の世界遺産委員会での正式登録決定が期待される。

 s-小笠原1.jpg調査に来たのは、国際自然保護連合(IUCN)から派遣された専門家2名。ユネスコが事務担当なのに、なぜIUCNの専門家が派遣されたのか。世界遺産には、文化遺産、自然遺産、複合遺産の3区分(カテゴリー)がある。それぞれの区分の登録基準に従って、ユネスコの世界遺産委員会において顕著で普遍的な価値があると認められたものが、世界遺産として登録される。1972年に世界遺産条約(正式名「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」)がユネスコ総会で採択されるまで、文化遺産と自然遺産はそれぞれ別々に保護条約の作成検討が進んでいた。その名残もあって、文化遺産と自然遺産が区分けされ、最近(2005年)になってやっと複合遺産という区分が誕生した。そんな経過もあり、条約の事務局はユネスコだが、文化遺産は国際記念物遺跡会議(ICOMOS イコモス)が、自然遺産はIUCNが、それぞれ審査などの技術的支援をすることになっている。今回の小笠原にIUCNから専門家が派遣されたのは、このためだ。

 一方、昨日7月24日付の朝日新聞記事によると、文化遺産の審査が厳しくなり、来年の登録を目指して再挑戦中の「平泉」も前途多難だという。さらに2012年の登録に向けて準備中の「鎌倉」と「富士山」は、推薦書提出の先送り論まで強まっているという。実は私は、富士山の世界文化遺産登録推薦のための学術委員も仰せつかっている。いや、別に委員でなくとも日本人としては、絵画をはじめ多くの芸術・芸能、信仰、さらに商標デザインなどにまで用いられるなど、さまざまな形で日本文化や日本人のアイデンティティを形成してきた富士山を世界に誇りたい気持ちは強い。しかし、なかなかハードルが高いのも事実だ。

 s-富士山0232.jpg「小笠原諸島」は2007年には暫定リストに掲載された。この暫定リストとは、国内で世界遺産の候補地として正式に認めて掲載されるもので、登録のための推薦書提出までの長い道のりの第1段階だ。小笠原の場合には、外来種問題などの解決のため、暫定リスト掲載後から正式推薦書提出までにさらに数年を有した。富士山も暫定リストには2007年に登載されている。

 この暫定リスト候補には、各地の自治体から多数の推薦が相次いでいるという。いずれも、世界遺産の知名度を生かして、観光開発に繋げようとの大きな期待がある。しかし、自然遺産の場合には、多数の観光客が訪れることにより、自然が損傷される懸念もある。すでに世界自然遺産に登録されている「屋久島」や「知床半島」「白神山地」では、観光客の急増で、踏みつけによる林木や林床植生への影響、さらにし尿やゴミ、騒音などの問題が顕在化している。ダーウィンの進化論でも有名な世界遺産第1号(1978年)の「ガラパゴス諸島」は、観光客の増加やホテル開発などにより環境への影響が大きくなり、2007年には「世界危機遺産」に指定されてしまった。かつて、わが国の国立公園制度創設期(「意外と遅い?国立公園の誕生 -近代保護地域制度誕生の歴史」)には、観光開発への期待から日本中で公園指定の陳情があった。しかしその後、国立公園の役割が自然保護や生物多様性保全にシフトするにつれ、行為規制を鬱陶しく思う自治体などからは公園解除の陳情が来るようになった。世界遺産には、こうなってほしくない。

 つい先日(7月22日)、IUCNの世界保護地域委員会(WCPA)メンバーの私に、IUCNから世界自然遺産の審査委員推薦依頼のメールが来た。これによると、本年の自然遺産候補リストには、小笠原のほか、中国やベトナム、インド、イランのアジア諸国、ベナン、ケニア、コンゴのアフリカ諸国、さらにドイツとオーストラリアからの候補地が掲載されているという。さらに、複合遺産にも、中国、ナイジェリア、スペイン、コロンビアの候補地がある。前述の新聞記事の文化遺産に限らず、自然遺産も候補地は多い。これらの候補地は、我こそは世界に傑出した自然であるとの地元の自負と誇り、さらに観光など地域振興の期待を背負っている。念願の世界遺産登録が、曲がり間違っても、危機遺産へのスタートラインとならないように祈りたい。

 なお、(財)自然公園財団では、パークガイド・シリーズとして「小笠原」を2010年3月に発行した。小笠原国立公園の自然情報などが満載のガイドブックである。私も、「国立公園そして世界遺産へ -小笠原の国立公園指定の経緯・世界遺産登録の動き-」を執筆している。興味のある方は、次のwebからの取り寄せ、または小笠原父島の売店や往復の船内で購入してください。  http://www.bes.or.jp/publish/parkguide.html

 (写真上)小笠原
 (写真下)富士山

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