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生物多様性国家戦略 -絵に描いた餅に終わらせないために [生物多様性]

 いよいよ今年(2010年)10月には、名古屋で「第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)」が開催される。それを目前に控え、3月に「生物多様性国家戦略2010」が閣議決定された。今更そのことをブログに取り上げても時期遅れだ。しかし、このブログは「人と自然」の関係を取り上げ、わかりやすく解説することを一つの売りにしている(勝手にそう言っているだけで、誰も期待していないだろうが)。その柱となるテーマに「生物多様性」を据えている以上、ここらで「生物多様性国家戦略」を取り上げておこうと思う。少し硬い話題だが、お付き合いいただきたい。s-第2次戦略3332.jpgs-第1次戦略3320.jpg

 「国家戦略」とはずいぶんと物騒な用語だが、これは「生物多様性条約」第6条に規定されている締約国ごとに作成する生物多様性の保全と持続可能な利用のための「国家的な戦略もしくは計画」(NBSAPs)に由来している。戦略は英語ではstrategyで、もともとは軍事用語だったが、外交などの政策や会社経営などでは、頻繁にお目にかかる。「戦術はあっても、戦略がない」などと結構日常用語としても使用されている(両方とも、元は軍事用語だ)。

 生物多様性条約は1992年に成立し、93年に発効した。日本はCOP2(1995年ジャカルタ)に間に合わすべく、地球環境関係閣僚会議での了解を得て最初の「生物多様性国家戦略」を策定(1995年10月)、条約事務局に報告した。爾来、「新・生物多様性国家戦略」(2002年3月)、「第三次生物多様性国家戦略」(2007年11月)、そして、最新の「生物多様性国家戦略2010」(2010年3月)と更新してきている。世界では、国家戦略(および/または行動計画)を策定済みの国は170カ国で、現在策定中が14カ国、未定が9カ国となっている(2010年5月現在)。策定済みの国々の中でも、日本は律義に3度の更新をしている。3度もの更新(つまり、4版め)をしている国は、日本以外にはない。そもそも、策定後に一度でも更新しているのはわずか33カ国、未更新で現在作業中は15カ国だから、日本の更新の頻度は際立っている。世界で最初に条約に規定する国家戦略を策定したのはシンガポールで、条約の成立と同年の1992年。このブログでもたびたび取り上げているインドネシアが"Biodiversity Action Plan for Indonesia (BAPI)"を策定したのは日本よりも早く1993年だ(中国も同年)。

 しかし、単に早ければ良いというわけでもない。絵に描いた餅では意味がない。得てして途上国は法制度など形式は立派に整備されていても、内実が伴わないことが多い。たとえば、国立公園などの保護地域でも、図面上は線引きがされて指定されていても、実際には管理がされていない"paper park"(紙上だけの公園)が多い。生物多様性を保全するためには、できるだけ自然のままで生態系などを保全する「生息内保全」(in-situ conservation)(生物多様性条約第2条、第8条)が重要である。そのためには保護地域の役割は大きいが、ペーパー・パークでは心もとない。生物多様性国家戦略でも同様だ。

 日本の国家戦略は、1995年のCOP2に間に合うように策定された。このため策定の速度も求められたが、律義な日本は文言だけではなく、実行可能な戦略の策定を目指した。しかし結果として、既存の各省庁の施策を束ねただけ(いわゆる、「ホッチキス止め」)との厳しい評価を受けてしまった。と言っても、これも策定に一時は関与した者の言い訳に過ぎないかもしれない。s-第4次戦略3325.jpgs-第3次戦略3330.jpg

 その後、「新・生物多様性国家戦略」では、「生物多様性の4つの価値」として、①すべての生命存立の基盤:現在及び将来のすべての生命に欠かすことのできない基盤、②人間にとって有用な価値:現在及び将来の豊かな暮らしにつながる有用な価値、③豊かな文化の根源:精神の基盤、地域色豊かな文化の根源、④将来にわたる暮らしの安全性保証:世代を超えた効率性・安全性の保証を掲げている。また、その保全のための課題として「3つの危機」、すなわち第1の危機:人間活動や開発による危機、第2の危機:人間活動の縮小による危機、第3の危機:人間により持ち込まれたものによる危機を、さらに「基本戦略」として、①生物多様性を社会に浸透させる、②地域における人と自然との関係を再構築する、③森・里・川・海のつながりを確保する、④地球規模の視点を持って行動するとし、これらに基づく「具体的施策」が掲げられている。確かに、前戦略より大分“戦略”らしくなってきた。「第三次国家戦略」では基本的にこれらを踏襲し、3つに危機に第4の危機として地球温暖化の影響を加えている。

 2008年には「生物多様性基本法」も策定され、単に条約だけでなく、国内法でも国家戦略が位置づけられた(第11条 策定の義務)。「生物多様性国家戦略2010」は、この基本法に基づく最初の国家戦略として、2010年3月に閣議決定されたものだ。これまでの戦略を継承しつつも、2020年までの短期目標と2050年までの中長期目標を定め、より一層“戦略”らしくなってきた。

 海外諸国と比較して、初動は遅いが一旦受け入れたら確実に実行する、というのが日本外交の定評にもなっている。それもこれも、「絵にかいた餅」にしないためだ。今年は名古屋でCOP10が開催され、世界の注目を集める。生物多様性国家戦略でも、法律に基づき閣議決定されたものである以上、政府一丸となって実効性を挙げてもらいたい。いや政府ばかりではない。地方を含む、行政、企業、住民(国民)の連携により、さすが日本といわれるよう期待したい。

 なお、生物多様性国家戦略の本文などについては、以下のwebをご覧ください。
   環境省HP 「生物多様性国家戦略2010を策定しました」 http://www.env.go.jp/nature/biodic/nbsap2010/index.html
   環境省生物多様性センターHP 「生物多様性国家戦略」 http://www.biodic.go.jp/nbsap.html


 (写真)生物多様性国家戦略の各版の表紙 (第2版から第4版は、普及版パンフレットの表紙)
   (上左)国家戦略(初版) (上右)新・国家戦略 (下左)第3次国家戦略 (下右)国家戦略2010
 
 (関連ブログ記事)「国際生物多様性年と名古屋COP10」 「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全」 「生物多様性をめぐる国際攻防 -コロンブスからバイテクまで


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