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諏訪の御柱祭と巨樹信仰 [巨樹・巨木]

 諏訪大社の御柱(おんばしら)祭が始まっている。中でも最大の見せ場である下社の御柱の木落としが9日から始まった。長さ18メートル、重さ7トンものモミの巨木を最大傾斜35度、長さ100メートルの急坂で一気に滑り落とすものだ。御柱に最後までまたがっていた者は、まさに英雄として後世にまで語り継がれるという。その栄誉を求めて、男たちが振り落とされないように巨木にしがみつく。毎回負傷者も出て、時には死者が出ることもある。7年に一度、4月初旬の棚木場(たなこば)からの山出しから始まり、5月に神殿の四隅に御柱を建てる曳き立てまでの2か月にもわたる伝統行事だ。

 s-バリ巨樹祠.jpg巨大な柱を有する神社建築としては、出雲大社や伊勢神宮が有名だ。創建当初の出雲大社は、現在の24メートルの倍以上の高さの建物であったとも考えられている。また、青森県の三内丸山遺跡では、直径約1メートルのクリ木柱の大型掘立柱建物跡が発見された。やはり高さ15メートルから20メートル、あるいはそれ以上以上の建物があったとも推測されている。いずれにしろ縄文時代から連綿として、巨木の柱を有する建物がこの日本列島の各地に建築されてきたことは確かだ。

 諏訪大社の御柱祭は、巨樹に対する信仰の一例、あるいは象徴としてしばしば取り上げられる。この巨樹信仰(巨木信仰)については、さまざまな角度から多くの著作も出版されている。たとえば、民俗学者の野本憲一氏は、その著『生態と民俗 -人と動植物の相渉譜』(講談社2008年)で資源保全や伝説も含めた人と動植物の関係の民俗事例を紹介しているが、その第1章めを「巨樹と神の森」に充てているほどだ。そして、巨樹に対して畏敬の念を持ち、そこに霊力を感じるのは、必ずしも日本人だけではない。東洋はもちろん、キリスト教以前のヨーロッパでもオークなどの巨樹信仰があったようだ。先日ある会合で安田喜憲氏(国際日本文化研究センター)から戴いた著作『山は市場原理主義と闘っている -森を守る文明と壊す文明との対立』(東洋経済新報社2010年)にも、そんな例が紹介されていた。多神教、アニミズムの世界では、巨樹はその重要要素の一つだ。

 s-伊豆三島神社のクス3062.jpg私は、環境省(当時は環境庁)で実施した「巨樹・巨木林調査」(1988年)を担当した際に、調査項目として位置や所有者、幹周などの基礎的な項目、根元の状況や健全度などの生態的な項目とともに、人文的な項目も加えることとした。人文的な項目とはすなわち、信仰対象の有無、独特の呼称・名称の有無、故事・伝承の有無、視認性および直接利用状況である。信仰対象では、神社や祠があるか、しめ縄が巻かれているか、禁忌(タブー)があるか、祭事があるかなどを調査した。通称「緑の国勢調査」と呼ばれていた「自然環境保全基礎調査」において、生態学的な観点と直接的な人為の影響の調査のほかに、こうした人文的な調査項目までも調査したものは当時では初めてだった。しかし、人と自然の関係の象徴でもある巨樹調査においては、人文的な項目は省くことはできないだろうと考えた。調査の結果は、調査対象となった幹周3メートル以上のおよそ6万本の巨樹のうち、信仰対象となっていたのは約22%だったが、私が独自に解析したところでは、幹周6メートル以上(直径約2メートル以上)に限ってみると40%以上が信仰対象となっていた。そして、巨樹の所有者はやはり社寺が60%以上を占め、イチョウやクスノキ、ヒノキでは社寺が70%にのぼった。巨樹は信仰の対象であり、また信仰の対象となることで伐採などから守られ巨樹が育まれてきたのだろう。

 悠久の時を経て今日に残る巨樹、それを見上げた時には誰もが畏敬の念を持つに違いない。その太い幹に抱きつきたくなる人もいるだろう。古代の人々も、洋の東西を問わず、こうした感情を抱いたに違いない。巨樹へのしめ縄やシンボルとしての御柱、さらには正月の門松やクリスマスのツリーなどにも姿を変えて、巨樹信仰(巨木信仰)は古代から現代にまで受け継がれてきている。

 (写真上)バリ島の巨樹の祠(インドネシア・バリ島にて)
 (写真下)しめ縄のある御神木(三島神社の夫婦クス、静岡県南伊豆町にて)

 (関連ブログ記事)「自然の営みから学ぶ -人と自然の関係を見つめなおして」、 「悠久の時そして林住期 -余暇と巨樹とを考える」、 「日本一の巨樹の町で全国巨樹・巨木林の会会長に就任」、 「全国巨樹・巨木林の会と巨樹調査再考」、 「巨樹の番付 -本多静六と里見信生」、 「バルト海の小島でワークショップ」、 「宮崎アニメ『もののけ姫』 人と自然」、 「アバター  先住民社会と保護地域


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