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インドネシア生物多様性保全プロジェクト2 (調査研究活動) [生物多様性]

 インドネシア生物多様性保全プロジェクトの活動の柱の一つに、「調査研究」がある。これは、インドネシア科学院(LIPI)研究者の能力向上と科学的データの集積を目指した活動である。プロジェクトの調査研究活動は、動物研究標本館やハーバリウムでの標本分類とグヌン・ハリムン国立公園(現、グヌン・ハリムン・サラック国立公園)でのフィールド調査研究とに大別される。

 ボゴールの生物学研究開発センター(RDCB)には、タイプ標本や既に絶滅してしまった種などの貴重な標本を含め、動物約30万点(その他昆虫等未分類標本約100万点)、植物約200万点が所蔵されていると言われている。しかし、プロジェクト開始前の標本収蔵庫は老朽化しており、高温多湿で虫害も多い熱帯地域では、オランダ統治時代から100年以上経ったこれらの貴重な標本の保存状態としては決して好ましい状態ではなかった。このため、世界銀行の地球環境ファシリティー(GEF)プロジェクトにより、再整備(再分類と標本箱更新等)及びデータベース化が進められた。このうち、ボゴール植物園内数箇所に分散していた昆虫などの動物標本は、再整備の完了したものから順次、チビノンの新動物研究標本館へ移転された。
(注) チビノンのLIPI研究コンプレックスには、動物研究標本館のほか、現在ではハーバリウム(植物研究標本館)も日本の無償援助によって建設されている。

 s-Research Station.jpg一方、プロジェクトのフィールドであるハリムン国立公園では、生物多様性保全に配慮した管理計画の早期策定が期待されていた。このような状況から、当プロジェクトの活動としては、当面は標本館での分類作業そのものよりも、フィールド調査を通じての分類学への貢献に重点を置いた。公園内のチカニキ地区には、リサーチ・ステーションとキャノピー・ウォークウェイ(樹冠観察歩道)が整備された。

 ハリムン国立公園は、ジャカルタの南西約100kmに位置し、1992年に指定された面積4万ha(プロジェクト当時:2003年にサラック山地域が拡張され、面積11万3,000ha)の国立公園であり、ジャワ島では残り少ない自然林の地域である。公園内の最高峰ハリムン山(標高1929m)を中心に、標高約500mから1900mの山地で、全体的にはシイ、カシ類などが優占し、日本の亜熱帯性照葉樹林にも似た植生である。ここには、ヒョウ (Panthera pardus)、ベンガルヤマネコ (Prionailurus bengalensis)、ジャワギボン (Hylobates moloch)、リーフモンキー (Presbytis comata)などが生息している。公園へのアクセスは陸路とはいえ非常に悪く、公園を横断する道路も悪路で、無償援助で建設した公園管理事務所とリサーチ・ステーション(共に、1997年2月完成)の間わずか20kmに、2時間を要するほどである。このため、国立公園とはいっても利用者はほとんどなく、大学の研究者やプロジェクト関係者が訪問者の中心であった。その後、管理費用収入を目的に、リサーチ・ステーションをエコツーリズムの拠点として一般観光客を受け入れるようになり、一時は研究利用にも支障が出たこともあったそうであるが、最近(2008年夏)は観光利用も減少してきている。

 s-リサーチ2.jpgこの公園を科学的知見に基づいた公園管理計画の策定と実施による生物多様性保全に配慮したモデル国立公園とするため、森林生態学や哺乳類、鳥類あるいは植物の各分類や生態調査の専門家が短期専門家として派遣され、公園内の動植物インベントリーの作成や分布調査、永久調査区(パーマネント・プロットpermanent plot)の設定などがなされた。例えば、1ヘクタール調査区のひとつ、標高1700m地点ではカシ属(Quercus lineata)が優占し、他にシイ属(Castanopsis acuminatissima)、Lithocarpus 、イジュ(Schima wallichii)が多く、1100m地点ではマンサク科のAltingia excelsaが優占するが、カシ、シイ、イジュもそれに次いでいること等が判明した。その他、かすみ網による鳥類調査、カメラ・トラップ(自動撮影)やラジオ・トラッキング(電波追跡)による哺乳類調査等も実施され、標高と出現種数との関係等の成果が取りまとめられている。カメラ・トラップでは、ヒョウの写真が撮影された。それまで地元住民の目撃情報はあったものの、写真という証拠はプロジェクト活動によって初めてもたらされた。また、これら公園内の野生生物の現状把握の結果は、公園管理計画の策定にも反映された。永久調査区の設定は、今後の生態系の長期モニタリングや動植物相互作用の生態系解明に貢献することになろう。

 (写真上) 日本の無償援助リサーチ・ステーション(グヌン・ハリムン・サラック国立公園チカニキ(インドネシア)にて)
 (写真下) カメラ・トラップの設置を指導するJICA専門家(グヌン・ハリムン・サラック国立公園(インドネシア)にて)

 *本ブログ記事は、筆者「インドネシア生物多様性保全プロジェクト(報告)」(国立公園567、1998年)を参考としています。そのほか関連著作に、筆者「インドネシア生物多様性保全プロジェクトと研究フィールド」(日本熱帯生態学会ニューズレター Tropical Ecology Letters No.27、1997年)などもあります。

 (関連ブログ記事) 「インドネシア生物多様性保全プロジェクト1」 「インドネシアの生物資源と生物多様性の保全」 「熱帯生態学会
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